シーダ・バーンのブログへようこそ。
これから家を建てようと思う人に伝えたい建築家の日々の仕事ぶりを綴っています。
学生さん、社会人の方々にも参考になれば幸いです。
なお、当ブログでは、人物、場所、日時等が特定できるような表現を控えています。



講義録-第2回101007


 前回は施工に限らない、とにかく面白い話を皆さんに読んでもらいました。各々の寓話が琴線に触れるものであったとして、それと同様な状況が施工の各場面で思い起こされれば幸いです。

 今回が積算・施工の正式スタートですね。まずシラバスの概要説明。皆さんは慣れているでしょうが、シラバスといわれて私自身が聞きなれない横文字と感じています。講義の内容と行程と思っていいでしょうか。政治家が使うマニフェストのようなもの。あまり好きにはなれません。行政、官僚の世界の言葉のような気がするのです。しかしシラバスとして明言せねばなるまいことがありますから。
 
 まず、施工の全体像を把握すること。施工は工事ではありません。各種工事の段取りと金繰りを進め、クォリティとセキュリティを確保することですから。次にその各種工事の概要を把握すること。最後に、設計者、デザイナーとしてこれからの時代に答えるため元請けからCM(コンストラクション・マネージメント)=建設管理の意義を会得すること。この3点が今回講義の主目的となります。
 
 各回の講義内容の進行については、当初予定と大幅に変更することがあります。これは本講師、私にとって初年度の講義であることで、主目的達成のために試行錯誤の比率が大きいためであることを了解してください。また私は長年建築全般に関わってきましたが、近年は木造住宅設計施工に取り組んでいるため、その範囲での説明伝達に限られてきます。しかし、建築の原点は住宅であること、さらに住宅工法のメインは木造であることが普遍していることから、木造住宅の施工に関する意義を了解ください。講義に出席することで30%の評価。出欠実績と受講態度が含まれます。また筆記試験により70%の評価。都合100%の採点となります。次に毎回の講義の進行予定をあらかじめお知らせします。




ト ピ ッ ク
 講義の立ち上がりの話。開始は定刻1040分ちょうどですが、残念ながら受講者の集まりが少ない。そこで10分程度で講義の直接のテーマではないが、聞きつけた話や日ごろ思っていることをいろいろな角度からお話しする時間とします。

  今回は役所弘司の話 産経新聞切り抜きから。彼は木工が趣味だといいます。流木を削って形にするのだけれど、取り掛かるにあたってその流木をみてからどうしようかと考えるが、ものはやってみなければわからない。出来上がるにつれてだんだん小さくなって、はじめてこんなものになったのかと。
 
 家と木工では目的も規模もまるで違うけれど、家だって本来は木という材料が手元にあって家をつくろうかとはじめて考えたことでしょう。図面もお金も関係なく、工事していくうちに形がわかってくるということもあったのでしょう。
 
 今は、工期とか費用とか法律とかさまざまな制約があって設計する人の仕事が先行して、別の施工する人があとからついていくようなことになっています。そうではなくて、家を作ろうとしたときから、工事のことも金額のことも段取りのことも、すべてのことが同時に頭の中を巡って体や指先が動いていくというような経験をしてみたいと思っています。もっと言えば、図面やら言葉がなくても職人さんとのやりとりに連れて建ちあがっていくようなことができるのが理想。そのためには過去の歴史や伝統文化の力が大きいし、長年培われてきた個人の修練も大事でしょう。そのようなことを思って日々の仕事に励んでいるのです。



現 場 速 報
 この講義を始めるとほぼ同時に基礎工事が始まった木造住宅の現場があります。つまり講義のスタートと着工の時期が重なっているわけです。この講義は半期12回程度ですが、工事の完成もかなりオーバーラップします。幸いデジカメやパソコンの発達で詳細な映像もあるので、できる限り私と職人さんの現場での仕事ぶりとそれをバックアップする事務所の施工への取り組みを同時進行でお伝えできると思います。
 時間は40分程度。講義では大量の写真とかけあい言葉ですすめましたが、このブログでは、同じ内容を「現場速報」と「用語解説」で説明しなおしています。



 1.現場速報






 2.用語解説

  • 基礎工事:なんと言っても、現場施工という物語の序章、戦で言えば初陣でしょう。どうせ土に埋もれてしまう話なのだから、関心ねえやなどと思う向きもあるかもしれません。しかし私にとっては特に遠方工事である場合、今回がそうですが、舞台と役者が総取り替えでの采配となり、その1回戦、甲子園の開幕投手のような心境でもあります。また「基礎工事は地球との対話です」と話したように、建築と自然をつなげつつも離すという、繊細さなセンスも持ち合わせて臨むものでもあります。心高鳴ること必須。初日、第1幕は敷地を掘る機械と人たちが登場します。



  • トランシット:はじまりは水盛りやり方という水平と矩計を確認する仮設工事から始まりますが、今回はトランシットで直角を出しコンベックス(巻尺)で間隔を測り要所に鉄筋を立てていきます。その間を石灰ではっきりとラインをだし、掘り方を進めていくわけです。



  • SGL:前日までは話題になりませんが、初日の現場で必ずこの言葉で聞かれます。よく覚えてください。GLという言葉は普通に訳して、グランドラインつまり地面の高さです。SGLはスタンダードグランドラインといって標準ジーエルと呼びます。先生!エスジーエルどこですか?と聞かれ毎回緊張します。なぜならこの設定如何で、建物のアプローチのコンセプトが形となって決まってしまうのだし、工事屋さんから見れば掘削の土の量がガラッと変わりますから必死です。できるだけ上げたいのですね。10センチでも違うと50平米で5立米の掘削、場外搬出など大きな影響が出ます。何を基準にするかは各現場で様々な場合があります。まさに現場勝負です。今回は、アプローチとガレージが一体ですから、車の出入りに注目したわけです。
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  • ユンボ:基礎工事の主役機械。ところがこの名前教科書のどこにもありません。一般的にはバックホーとか油圧ショベルとかいわれますが、ユンボという名称は商品名ゆえどこにもないわけです。少なくとも住宅工事では全国どこでもユンボと呼ばれているのに。土工事、掘削が最初の工事であるから、ユンボは目立つのです。



  • ネコ車:主に土やガラを積んで運ぶ人力一輪車。



  • ランマー:自身の重量とエンジンの振動で表土を固める機械。転圧重量が大になると、舗装工事などでおなじみのローラー車と呼ぶものになる。









平バケット と 爪バケット
  • バケット:ユンボの先端につけて掘削するスコップのような道具。平と爪があり、平は幅70cmあって、ちょうど布基礎の底堀に適している。爪は幅が狭いが、路盤を砕いたりして掘るもの。



  • 束石:布基礎の場合、主に床だけの加重を受ける1階の束柱の基礎がある。近年布基礎の工事が減少して既製品ではしっかりしたものがなくなっている。今回は現場製作もの。束石に埋め込む羽子板等の金物も種類少なく、金物屋で探してくるのも一苦労がいる。



  • サイコロ:鉄筋を地面から持ち上げてコンクリートの被りを確保する小さなコンクリート材。



施工前 と 施工後
  • セパ穴:コンクリートの厚みを確保する金物をセパレータ、略してセパ。その金物穴を言う。あとで埋めて体裁よくできるための穴をセパ穴。木コン、ピーコンなどとも呼ばれる。



  • 地盤調査(スウェーデン式):一昔前は木造2階建て等は地盤調査とは無関係だったが、今は数万円で依頼できる単純なこの方式が主流。標準5ポイントまで調査。一般的に建物自重と床荷重200kg屋根荷重100kgとして、地耐力が平米3トン以上あれば布基礎でかまわないが、それ以下の場合ベタ基礎、さらに地盤改良が必要となる。地耐力が3トンに近い場合、ポイント外で部分的に地盤がさらに悪くなるときがある。比較的範囲が狭い場合は布基礎の構造で問題ないが1メートル以上ある場合部分的に地盤改良しなければならない。現場で鉄筋と棒などで、手踏み足踏みして硬さを自力チェックすることも大切である。なおボーリング調査という言葉があるが、これはビルなど大きな建築のとき地質まで調査する本格的なもの、用語の区別したい。



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  • 糸を張る:現場では結構糸が活躍している。水糸、墨出し糸、下げ振り糸など。掘削工事で登場するのが水糸。水というのは水平という意味。糸というよりゴムみたいに張るので水平がわかって各所のレベルが簡単にわかる優れものだ。



  • 掘り方:掘削というと堅苦しいので現場では掘り方という。



  • 石灰:トランシットと水糸で位置がわかれば、実際に掘るところに石灰を撒いて決定する。他の現場ではむしろ赤いスプレーが手軽で流行っている。



  • 埋め戻し:掘削した土は大量なので、速やかに場外搬出する。通常4トントラックで、見積もりでは立米いくらという単価であるが、実際は1台あたり幾らという費用がかかる。



  • クラッシャーラン:人工的に砕いた砕石。掘り方のあと約5センチくらい敷いてレベルを安定させるとともに、ランマーで閉め固めやすい。捨てコンの下地ならしに使う。一昔前は割栗石といってごろごろした自然石を使ったが、今は機械で閉め固めるため、めったにない。なお再生クラッシャーランはコンクリートを砕いて再利用したものだが、価格的には差異なく、エコだというだけで指定されない限りつかわれない。バラス。



  • 捨てコン:捨てコンクリート。正確な基礎ベースを打つための下地コンクリート。強度はなくてよい。レベルと墨だしができる役割。実際の講義後、ある受講生が「家や建物の下には膨大なコンクリートが捨てられていることを知って心が痛みました」と感想文。地球との対話と言った私が恥ずかしくなる、繊細な神経に心動かされた。以前、捨てコンなしでクラッシャーランを転圧したところに墨だしして型枠を乗っけた現場があった。あながち、その省略工法も無視できないのではとも思う。
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  • 仮囲い:仮設フェンス。トラ色のバリケードや足場パイプで組んだもの、丸太で組んだものに白いシートを掛ける。通常基礎工事の場合は粉塵などが立ちにくいので省略するが、隣地塀を撤去したりない場合に設ける。







  • 捨て筋:基礎の鉄筋を組む足がかりとなる基準鉄筋。所定の位置に仮止めする。主筋・ベース筋などが設置されれば不要となる。











かぶり厚60ミリ と フック
  • 鉄筋かぶり厚:設計図には特に寸法は描かれないが、規準で決まっているコンクリート表面からの有効離れ寸法。打ち放し部分40ミリ、地中部分60ミリである。
  • フック:地震などで異常な力がかかっても主筋がバラけないように繋ぎ止める鉤の手。基準法ではなくてもよいが、阪神大震災など激烈な力を目のあたりに見ているものとしては、視覚的に繋がったものは存在感がある。そのフックを斜めに設置しても少なくとも幅40ミリ寸法を取るので、実際の位置チェックには神経を使う。



  • ユニック:一角獣から来る名前。トラックで荷揚げ荷卸ができるクレーンをもつもの。単なるトラックは平積みと呼ばれ、運搬代の単価が違ってくる。



  • 納屋組:施工の最前線は現場であるが、その現場を円滑に運営するためバックの納屋組の多大な労力を必要とする。その舞台裏とでも呼ぶべき労力の一端を随所にブログで紹介している。



余 談
 写真説明していると、ふと補足したり余談したり、ということがある。小話である。
 
  • 職人、専門業者探しの方法:基礎工事専門あるいは得意にやっていますとは電話帳やホームページではほとんど情報がない上、遠方にもかかわらず、オヤジ率いる基礎屋をどうやって探し出すのか。答えは王道はない、だろう。予算にかない、且つやる気のあるところに辿り着くには、苦労と執念の日々に苦しむ場合が多い。しかし、基本は人と人の繋がりを手繰っていくということか。決してウェッブで一発決めのようなことにはならない。ただし、地盤調査などは近年サイトから決めていることが多くなった。



  • 職人の仕事時間のはなし:8時にぴしっと始まり17時にぴしっと終わる。12時から1時間昼食、休憩は10時、15時の10分少々。全国ほぼ同じだ。学生、先生、会社勤めの人とは根本が違う。特に朝遅く夜遅い設計者とは別世界。もっとも近くなくてはいけない人種の生活が、こんなに差があっていいものだろうか。設計施工の分離問題が深刻に現れた実例である。



  • 足場屋さんの仮囲い工事:夕方日暮れ前、いろんな現場から職人が集まってきてあっという間に建て込んで行く。その人間模様みているとまるでポナペ島現象かと錯覚してしまったのは私だけであろう。




ワ ン ポ イ ン ト
 この講義は一貫して私のポリシーであるシーエムについての考察と是非議論の説明をする。20分程度。今回は省略。




Q & A
 毎回学生さんから質疑、感想を募っている、時間が余ればできるかぎりお答えするものである。10分程度。今回は時間切れ。







以上終了