シーダ・バーンのブログへようこそ。
これから家を建てようと思う人に伝えたい建築家の日々の仕事ぶりを綴っています。
学生さん、社会人の方々にも参考になれば幸いです。
なお、当ブログでは、人物、場所、日時等が特定できるような表現を控えています。



講義録-第3回101014


講義前のひととき


本日の講義案内
 おはようございます。今日は3回目の講義です。前2回で少し様子もわかってきましたので、講義の行程を考えました。まずは最近の話題に思ったことを話すトピックを10分。次に講義と並行して進んでいる現場速報を20分。施工に関する説明に20分。前回教科書的な資料がないというリクエストがありましたので、皆さんに配布したコピーを見ていただきます。つぎに質疑応答25分ですが、質問にお答えする時にその学生さんの顔が見たいので予めお呼びした方は、この白板に書いてあるように前列の席に移動してください。最後に今日の講義の感想、質問などを書いていただく5分間で合計80分とします。予定通り進むか心配ですが、よろしくお願いします。



トピック
それではまずトピックから始めましょう。野球の話です。阪神タイガースのマートンという新参の外人選手が年間安打数の新記録を打ち立てたというニュースがありました。

今までの記録はあのイチロー選手が長く持っていて、なかなか超えられなかったんですね。そのイチローがアメリカの大リーグに移籍したんですが、その彼をどうこう言うわけではなくて、いわゆるイチロー報道というものにかねがね違和感を抱いていました。移籍当初から伝わってくる情報は、昨日の試合では何安打打ったとか、これで何試合連続安打とかいう報道ですね。その結果、今度は200本安打まであと何本とか、つまりほとんど毎年、毎日、安打数の報道なのですね。もちろん打率とかも高い数字なのですが、これは首位打者になるかならないかが大きな問題らしく、数年に限られた記憶があります。

でも、ちょっと待ってください。野球に限りませんが、こういうスポーツって個人記録は大事ですが、その前にフォア・ザ・チームといって、チームがチャンピオンになるために選手各人がチームワークを駆使して働くことがスポーツマンシップの鑑とされるもんではなかったのですか?イチローは左バッターで足が速いから内野安打が多く、安打数が稼ぎやすいんですね。

しかし、その反面、1塁走者を進塁させられないとか2塁走者を生還させられないという弱みも出てくるんですね。長打を警戒する四球も得にくいですし。安打数だけでチームの勝利に貢献するかどうか評価するのは微妙なところです。

実際在籍してきたマリナーズは毎年リーグ優勝から見放されている球団です。イチロー報道はスポーツの本質から外れたところで、わかりやすい数字報道に徹したのではないかと?連続200本安打などの日本人としてだけでなく前人未踏の記録的報道になかなか本当のところが伝わらないのではと思っていました。そこにこの新記録樹立があったものですから、この記者はイチローの真実、とばかりに書きたてたのでは思うくらい、数字を挙げて両者を比較しています。私がかねがね抱いていた違和感を晴らしてくれたのですね。

今年のイチローは驚いたことに、安打数が増えればチームの負けが込むという現象があったらしい。チームも低迷、「孤独な安打製造器」とまで言い切っています。決してイチローのもつ高い技能を貶めている気持ちはないのですが、あたかも主役的存在として称揚するような報道は勘弁して欲しいということなんですね。いぶし銀のような存在として高い年棒を得てくれるのはかまいませんが。

さて、もうひとつ新聞記事で気になったものがありました。この方は以前コンピュータ社会を云々していた先生ですが、昨今、テレビや書籍で流行している、わかりやすい解説に言及しています。「わかりやすく」の解説は、結局問題の単純化であり、予定調和してひとつの単純な答えに至る。そうではなくて、わかりやすく難しいと示してくれる、その問題がなぜ単純でないかを示してくれるほうに意味を見出しているようです。

このことで私にも思うことがあります。震災があった直後、建築家などがボランティアで耐震調査を立ち上げ、私もその調査に参加したことがあります。行政も緊急に耐震判定というもので、解体の補助金を出すなど動いていたときですね。たしかに私はヒアリング、実態調査は大切に思って参加したのです。

そのとき覚えているのは、いっしょに行動した学生さんに、建築家と学生というコンビで各家庭に伺うといったシステムだったんですが、「こういうことは体験するだけで貴重だよ。調査した数字を編集したり、結論などを出すことは控えたほうがいいよ。」と伝えた覚えがあります。私は、当時どの程度の知識があったかは覚えていないのですが、耐震壁理論に疑問を抱いていたのですね。

というのも、私の父母の家が昭和初期の家で、南面は壁がほとんどない2階建てで筋交いなども入っていないような工法だったにもかかわらず、瓦を多少落としただけで壊れなかったんですね。ですから壁量や壁配置を重視する調査にはすでに、直感的、経験的に違和感を感じていたわけです。全壊半壊という判定で解体補助金が出る出ないという制度も悩ましいものでした。

当時はまだ勉強不足で、というか誰もそういうことは教えてくれませんから、家が傾いてしまうと、いづれ倒壊の危険性があるから解体したほうがいいとも思っていたんです。その後、木造に関する本を読んで、きちんとした日本建築だったら粘りというものが効いて、ある程度傾いてとまるというかまた戻るような構造だと思うようになったわけです。

(クリックして拡大)
ところで、その調査結果というのが、後日公表されて、やはり壁が足りなかった、配置のバランスが悪かったから建物が倒壊したというものだったんですね。しかしそれは倒れた建物をみているだけの結論で十分ではないのではと思いました。私の父母の家のように壁がなくても倒れなかった家には実際、私以外誰も訪れることはなかったのです。

耐震壁云々の説明はわかりやすいのですが、それだけでは説明できない日本建築のすごさというのにはイメージが及ばない結論なのです。耐震壁理論のイメージがもとにあって、調査結果を予定調和的に答えに至ったものではないですか。

先ほどのイチロー報道もそうですが、数字やデータにだけとらわれて説明するということがわかりやすい反面、本当の姿を見失う落とし穴にはまってしまっているのではないかと思います。



現場速報
現場速報に移ります。さて今日は、皆様のお手元に資料配布しました。前回にアンケートしていただいた中に、2、3教科書的なものがないのかというお尋ねがあって、私自身は気に入った施工・積算の本が見当たらない理由で教科書は購入していただかないようにしていたのですが、やはり何か手がかり的なのものとして必要なんだなと思い、石井勉監修「よくわかる建築・土木」(西東社、ISBN4-7916-0177-7)という本の抜粋をコピーしました。挿絵や図表が入っていて結構気に入った本なのですが、土木工事も入っているので、一部コピーしたわけです。どうぞ補足資料としてお読みください。
ブログでは講義でお見せした大量の写真とその都度の解説がありませんから、個別に大事な写真と解説をこの欄で入れていきます。専門用語などの解説も兼ねます。


 1. 現場速報



 2. 用語解説

  • 墨付け:木材をカットする前に目印の線などを引いておく作業ですね。設計者が模型を作るときに鉛筆で薄い線を引く作業に相当します。この線は、竹のペンのようなもので、墨を付けて書いていきます。一昔前設計者が烏口で図面を書いていたようなもので、世代によっては懐かしさを覚えます。長い線の場合は墨壷を通した糸を、ぴんと張りおろします。随分昔風な仕方ですね。ところで近年はプレカットという機械加工が流行っていますから、このような手作業が敬遠されるに至っています。私も以前は、それが近代化だと思いましたが、今は手作業のほうを尊重しています。なお、墨付け作業は棟梁といわれるトップの大工さんが取り組むことになっています。

  • 刻み:墨付けした木材を切り刻むこと。鋸やドリルで穴を開ける、鉋で削るなど、主に手下の大工が総勢でかかります。墨付けから刻みまで通常の家で一軒あたり約1か月から1ヵ月半かかります。



  • 太鼓梁:木材の両側を製材し上下を残すと太鼓のような形状になる。丸太では荒々しいが、程よく木材の自然な感じが残ります。丸太と同じく、上下の位置が定まらないので墨付けに手間がかかります。寸法は末口何寸などと指定します。上面を削ると3面摺りとなり、梁の下面を楽しみながら墨付け手間も軽減できるものです。もちろん通常はこれは加工手間や保管などの合理性から4面製材となるのです。

  • 墨壷:朱肉ならぬ墨肉に糸を通しその糸で直線を描く便利な道具。基礎工事や瓦工事、タイルレンガ工事などにも登場しますよ。最先端のレーザーなどの発達にもめげず、その異様とも思える姿は健在です。





  • 大工さんの図面、ベニヤ板:私たちは紙に図面描いたり、キャドということになりますが、大工さんは昔ながらといってもベニヤ板ですが、1枚の大きな板に見上図、伏図的に書き込むんですね。設計図と違って物つくりのために描く施工図の原点です。これだったら現場の荒仕事にも丈夫で見失なうことはないということでしょう。

  • ツイン・マスター:ひとつの家では通常一人の棟梁に任すわけですが、今回は設計も分節といって、離れや増築的に分けていますし、それぞれ2つの棟で棟梁の手がちがうという手法を使いました。あたかも長い時間を経て家が建っていくというイメージで、この大きな住宅を理解していこう、あるいは馴染んでもらおうという趣旨です。大げさに言えば、ヨーロッパの建築、それからガウディの聖家族教会のように何世代もの職人の手を経るという施工イメージです。棟梁にとっては多少やりにくい?相手を意識するかもしれませんが、各々気にせず自分の仕事してくださいといっておきました。馴れ合いを防ぐ刺激、緊張感、よい意味での効果もあるかなと。それでも、棟梁が一度した打合せしたいということで会ってもらったわけです。木造住宅はじめてから10年目での試みです。ただ私は立会いできなかったので、チアが代理で行ったのですが大工言葉の応酬で何がなんだか分からなかったという報告ありました。これも刺激で、今後よく勉強して欲しいですね。




Q&A

Q.(Sさん)基礎工事をする人たちは基礎のことしかやらないのですか?
A.基礎工事というのは建築、住宅にとって大切な部分の工事ですね。でも実際の話、電話帳を探そうとしても基礎工事という分野がないのでたいへんです。大体が土木建築工事として登録されているので、どんな会社が基礎工事、特に住宅の基礎を得意としているかわかりづらいのです。基礎工事する人は、プロフェッショナル化、分業化、専門化されています。知り合いの○○工匠という会社があり、解体屋さんであり基礎屋さんでもあります。こういう事例もある一方、分業化の流れで、基礎工事以外には関わらない、直接は関わりにくくなっているというのが現状といえましょう。


Q.(Hさん)発掘された大きな石はどのようにして使ったのですか?
A.束柱として、11月あたりで上棟しますからそのときのお楽しみですね。


Q.(Fさん)現場の職人が設計者にばれないように仕事を隠すこともあるんですか?
A.お施主さんで夜勤の方がいて、昼間からいつも現場に付きっ切りだったことがありました。職人は自分の仕事を見られるのをイヤがっていました。そのためかどうか、そのお施主さんに限ってあいさつしなくなってしまったんです。とうとう、その職人は態度が悪いから差し替えてくれと。でも仕事ぶりはまじめな人なので、できるだけ近づかないようお願いしました。プロ=マジシャンと考えてみてください。先生にはみられてもいいんです、裏も表も知ってる人ですから。だけれども素人に見られるとなあ~だということになってしまいます。つまり、職人というのは、仕事を人に見せるものではなく、見えないところでコツコツとやるのです。











以上終了

引継帖-10Y邸その7


あらすじ:
夏の暑い盛りに上棟した10y邸だが、先生が遠方の他現場に出向くことになり、納屋組バトに重責が引き継がれた。既に数年の現場経験を経ているせいか、実力発揮のチャンスと先生の引継ぎに没頭。一旦大工工事終わりで現場空いていたが、再開した現場は浴室タイル張りなどの内装工事の立会いへ・・。



下記、10y邸現場報告書お送りします。
納屋組バト


某月某日 曇り後晴れ 8時30分~17時退出
○浴室左官下地について
・在庫品の左官用簡易防水材塗布
・アスファルトフェルト430使用:さすがタイル屋だけあって仕事が丁寧でした。やはり仕上げのタイルまで張るので下地でもしっかり仕事しているのでしょう。
・左官水勾配、左右ブロック積み1段:丁寧な仕事でなおかつ遅いわけでもなく、予定していた工程を終わらすことが出来ました。この調子なら左官下地予定人工2.5で納まるのでは。
・親方のボヤキ
最近はどこも安く安くって言われるけど、安くしたらその分質を落とさざるを得ないんですよ。その値段分の仕事しかできないんです。アスファルトフェルトだって薄かったり、下地の左官塗りだって時間ないからそれなりの仕上げまでしかできないとかです。タイルも検品してダメなやつはハネるんですが、安くといわれると全部合格で使うしかないんです。仕上がりが違いますね。
○その他
・合板端切れゴミ 10yさま処分済み
・雨戸 10yさまベンガラ塗り済み
○納品
・●●木工 ステンレスシンク
・事務所 建具金物
・●金物 打ち掛け
・●屋 真鍮レール
・●●リビング ガラス窓、無双窓
・●窯業 窯変レンガ
○現場写真
○納品
  量販店にて
・ 両面テープ 20ミリ×20メートル 7
・ マグネットキャッチ72ミリ(21) 階段下収納両開き戸用)
以上 


引継帖-10Y邸その6

あらすじ:
10y邸の現場を先生から納屋組バトへと引き継がれた。実力発揮のチャンスと先生からの引継ぎを日々こなしていく。10yさま、先生、職人などの調整役として数々の困難に遭遇しながら、しぶとく施主現場打合せに臨んでいく・・。



下記、10y邸現場報告書お送りします。
納屋組バト


某月某日 晴れ曇り 8時30分~16時40分退出 現場残材等整理
○大工3人(ブウ、ガシ、クム 8時~17時 キッチン引き出し、便所、テレビ台
○切込ダキ1人 8時~16時 雨戸外部板窓、戸 建付け済み
○左官タオ1人 8時~16時 下地塗り
・次回天気よければ10/25(月)現場入る
○電気屋シニア1人 9時~12時 照明器具取り付け
・自立計器盤 1つ窓にするには戸を特注するしかない。見積渡します。
→自立計器盤の件は施主了解得ましたので、
そこまで気を使っていただかなくても・・・。見積もり受け取ります。
(先日、自立計器盤選定経緯聞いたのを変に気を使ってくれたのか
1つ窓でできないかいろいろ考えてくれていた模様)
・次週はじめ現場入ります。
・来週中頃 宅内通電できる見込み
○板金カツ1人 15時50分~16時20分 煙突小屋奥付け板金実測、煙突トップおよび
二重煙突1本寸法あわせのため持ち帰り
・天気よければ次週はじめに煙突仕舞いする。
○10yさま 10時10分~11時30分
▽フローラガラスの件 ご了承
・○○○リビングからのガラス実測表を10yさまにメール添付
・10yさまがガラス実測表をフローラガラス業者に送付し発注
・事務所より現場納期を10yさまに指定する
・10yさま事務所指定日に現場納品、ガラス屋タラ ガラス入れ
・フローラガラスは施主支給品あつかい
▽建具ベンガラ、柿渋塗装の件
・雨戸順次 ベンガラ、柿渋塗ります。
・ガラス窓建具 納品次第柿渋塗っていきます。
▽設備機器
・今日現場納品の食洗機、水栓、ガスコンロいったん持ち帰ります。
また納期ご連絡ください。
▽真鍮ツマミ( 現場納品済み)
ご主人:(事務所提案ツマミと見比べて)これ一回りちっちゃいですねぇ・・・。
(事務所提案ツマミもたれて)あぁ、やっぱりずっしり・・・・。
▽雨戸等開け閉め
バト:しばらくすると現場開きますので、その間の雨戸開け閉め
よろしくお願いします。通風をはかっていただかないといけませんので・・・。
ご主人:わかりました。
○納品
・薪ストーブ本体および煙突部材全て納品 12時50分ごろ
・事務所より鉄棒 納品
○現場写真
○板金カツ
・キッチン流し下ステンレス板納品済み
ステンレス板見積書追って送ります。

以上

現場速報-10Z邸17日目午後、型枠



あらすじ  
フェリーで遠方に行き来する現場の基礎工事は一筋縄ではなかった。しかし地元の顔とでも呼ぶべきオヤジに導かれ徐々に道が拓かれていく。


主な登場人物
オヤジ:基礎屋の社長兼親方。口も手も動きが速い。基礎工事幕の主役。
ブル:型枠職人、おっとりしている。


午後は引き続き、型枠固定の作業。こちらはいよいよ迫ってきたコン打ちに備え、アンカーボルトのチェック。いけこむに当たって、やはり点検口の補強筋が邪魔になっている。番線や小石でスペースを広げたりする作業にかかる。場所は5,6箇所だが疎な倍はあるので一苦労。それぞれ通り芯番号つけて記録する。


15時過ぎオヤジ登場。ブルと話し合っている。「先生、ここ見てください。型枠が墨より内側に入ってるけん、150幅とれてません。これどうします?ちょっとぐらいの誤差しょうないやないか。悪い施主あたると、こういうの見てクレームつけてきますからね。そらっ!やっぱりやりなおししないと。あっちのほうにも150取れてないところありましたよ。ここですが。こんな、中央のところは上のこのサンギ打ち直せば簡単に直るけど。角のところは・・。大工さん、やらないのか。丸のこもってるか?わしがやるけん。」といったん型枠を取り外して、直し始める。ブルもしぶしぶ反対側をはずして同じように。両端直ったところで型枠工事は終了。16時半退場。事務作業等終えて、17時半帰路。

実は日中、フェリー乗り場に無料駐車場はないのかときいたところ、新門司にはあるという。昨日のスリーブ騒ぎで、現場到着の遅さを痛感したため。これはラッキー。直接プロシードで乗り付けられるのだ。コン打ちの朝は7時半には到着できるだろう。プロシードにて18時フェリー乗り場。あすは一日現場は休みである。

現場速報-10Z邸17日目午前、水道屋



あらすじ  
フェリーで遠方に行き来する現場の基礎工事は一筋縄ではなかった。しかし地元の顔とでも呼ぶべきオヤジに導かれ徐々に道が拓かれていく。


8時過ぎ宿を発ち、水道屋へプロシードで向かう。昨日のスリーブ工事の件、電話ではよく伝わっていないと感じて、幸い徒歩圏に会社があるようなので朝駆けすることに。

昨日電話をしたのだが、留守だというので社長から電話くださいと伝えたところ、後で息子さんから返事があった。直接言うのもいいかと思って、「お客さんのお金もらって施工図かいて好きなように施工してはいさよなら、そんないい仕事あるって聞いたことない。今日来た職人さん稲原さんですか、、この現場ずーっと来るんですか。担当者なぜ現場来ないんですか。稲原さんが担当者ですか。」「そうです、稲原がずーーと来ます、担当者です。」「では誰が図面書いたのですか。」「父です。」「それならお父さんが担当者になるんでしょう。お父さんは忙しいから、あなたが担当者じゃないですか。もっと現場に愛着、執念持ってください・・。」などと苦言を呈すと、「はい、わかりました。」これはわかっていない。

事務所内2階にあがって、「ごめんください」というと、親子で出迎え。「昨日は手直し来ていただいてありがとうございました。実はその後監督さん来られなかったのし、図面が見つかったので後先になりましたが、昨日の修正箇所チェックしてもってきました。これで図面直して事務所に送ってください。」「どうもすいませんでした、先生はずっと現場に来られているんですか。」「ずっとではないけど、20回くらいはきています。たまには現場打ち合わせに来てください。北側の配管スペース苦しいのも打ち合わせ不足だからでしょう。よろしくお願いします。」

現場に戻る。型枠屋が鋼管を積んできている。今日は型枠に横通しの補強パイプを取り付ける作業。セパ金具で両壁をあわせた後ホームタイという金具をねじ込む。それにダブルという楔による押さえ金具を取り付けて固める。短いところは木を適当に切る。午前終了。

ところで、10y邸の薪ストーブの件、よい方向かと思いきや、昨夕またメール連絡が来た。

市居様
更に勝手になりますが、相談させて頂きたいです。
確認申請時、提案くださっていた機種寄り道しましたが、やはり一番いいです。ただ、新型と比べ、倍ぐらい費用要ります。費用がネックです、ネットからの購入でご面倒見て頂けないでしょうか。尚、当初よりご提案いただいていた型番になりますので施主支給では無く、CM料は必須の認識でおります。以上ですが、コメントを頂きたいです。宜しくお願い致します。

というもので、またまたネット商品の相談である。その方面のお店は個人的に賢く使えば問題ないが、世話をするとなると責任問題にかかわってくるので問題だ。しかし若い方のこのような指向はにわかに増えているという。お客様だけに、その意向を無視するわけにはいかないのが実情であろう。私も、半日どうしようかと悩んだわけであるが、この昼休みに返事をしなければ元の木阿弥にもなりかねない。昼休み直前返信メールを打つことに。

10yさま 
お世話になります。返信遅くなりました。
まずは機種決まりました。現物みていますし、お客様使っています。自邸は同じシリーズを入れて使っています。ありがとうございます。問題点金額だけですからクリアーです。薄利多売のネットショップと10yさま 思惑あっているように見えますが。薄利過ぎますので、老婆心ながら心配はあります。
こちらサイドでは原則支給品です。設置取り付けまでご協力できません。工事当初の約束に入っていません。軒先渡しでなく車上渡しです。設置2,3人と書いてありますが床にあげるので素人だけでは重くて間違えれば、建物に傷が、人体にも危険なものです。3人必要です。人件費に直せば最低2万円です。養生もいります。煙突との取り付け調整も必要です。人件費になおすと半日で1万円。不具合あったら責任持てないので、煙突全体を10yさん側で施工していただくかもしれません。そういう別途のお客様も多いです。提案品価格との差額4万円です。CM料心積もりあれば、ここは通常どおり進めるのがよいと思います。
なお便所手洗いの件 白でお願いします。事務所で使っている楕円型の手洗い鉢です。衛生管理上 皆様住宅では白です。水商売は色物です。お子さんもいらっしゃいますから。図面参照ください。大工手待ち迫っています。至急ご査収ください。
市居博


昨日に引き続き電話を入れると、了解ですという返事いただいた。やれやれ、ほっと一息。




現場速報-10Z邸16日目午後、型枠



あらすじ  
フェリーで遠方に行き来する現場の基礎工事は一筋縄ではなかった。しかし地元の顔とでも呼ぶべきオヤジに導かれ徐々に道が拓かれていく。


主な登場人物
オヤジ:基礎屋の社長兼親方。口も手も動きが速い。基礎工事幕の主役。
ブル:型枠職人、おっとりしている。


昼過ぎ10yさんに電話。
「薪ストーブは量販店ものではなく選んで行きましょう。」「コンパクトなもの希望していますのでお願いします」「便所の錠の件ですが、これはこちらの手違いありました。シーダバーンと同じ表示錠(内部サムターン付き)がいいと思います」「それがいいですね」「ツマミはネットでもう購入されたので仕方ないですが、ネットの型ガラスの件はサンプル取り寄せして決めましょう」「外壁ですがポーチにおいてあった漆喰色サンプル、5種類作りましたが、最初に作った黄色味のコテ押さえがご要望の校庭の土色に近いですね。スパニッシュ瓦ともあっていますし、南仏のプロバンス風でもありますよ」「はい。それがいいです」などと、やはりじかに声で話すのが一番である。


午後、型枠工事進展。ピーコンのボルト位置にあうように反対側の型枠、これは外側だから新品に穴をあける。そして型枠押し込んで、そこに何か複雑な形をした金具を取り付ける。型枠職人ブルから質疑。この玄関土間の立ち上がり低いけん、図面通りやと鉄筋が飛び出てしまうわ。」「どれどれ、あ~鉄筋間違えている。このままだと柱切らなあかんですわ。オヤジに連絡して直してもらいます。」

1520分オヤジ再登場。「どうするんですか?カットしたらここだけフック無しになりますか?」「いや、格好は自信ないけどフックつけます。」「意地でも?」「意地も何もないです。図面にあるようにするだけです。といいつつ番線をほどき、フック筋上部をカットし、パイプ風の道具でまげてゆく。」手作りフックだ。範囲も短いせいか30分ほどで終了。

待ってましたと型枠建て込み。

ところでだいぶ建て込み終わりましたね。内側固まっているからそろそろ対角測りましょうか。建物大きいから3つの四角い部分で測りましょう。3つのは位置関係はトランシット信じて。まあつなぎの部分だから多少いがんでも・・。これだったらもうできる。リビング棟から行きましょう。急ぎマナに連絡してピタゴラスの定理で対角寸法出してもらう。

巻尺ここが0ですからあわせてください。いいですか、引っ張ってますか?はい、10.420ですとオヤジ。あれ、ぴったりだ。反対の対角いきましょう。10.420!オヤジあらかじめ計算してたんではないの?そんなことないです。次は母親棟できますよ。まず一つ目の対角・・10.540です。5ミリ多いな。もう一方は・・10.530dす。こっちは5ミリ少ない。オヤジ、4辺測ろうか。4辺ともほぼ7450です。

そうか、そういうことか。つまり少し菱形になっているんだ。その誤差はキャドかなんかでわかるけど、わずかでしょう。いいとしようか。家族棟はまだできていないから明日にでも。などといっているうち家族棟も出来上がり。測ってみるとほぼ四角でオーケー。結局対角チェックはこれで終わりだから、コン打ち前に駆けつける予定はなし。17時型枠屋退場。オヤジに見積もり依頼書、合板と金物渡すと、即座に電話、話しつけてくれた。オヤジ退場の後、それぞれに電話して納屋組からファックス送りますからよろしくと。チアがファックスしてくれる。18時前退場。理栄泊。

現場速報-10Z邸16日目午前、型枠


あらすじ  
フェリーで遠方に行き来する現場の基礎工事は一筋縄ではなかった。しかし地元の顔とでも呼ぶべきオヤジに導かれ徐々に道が拓かれていく。


主な登場人物
オヤジ:基礎屋の社長兼親方。口も手も動きが速い。基礎工事幕の主役。
サイ:電気屋の一人親方、徐々に熱意が伝わってくる。
リブ:設備屋。年配でおとなしそうな感じ。スリーブから来たからリブと呼ぶ。



前日の10y邸現場立ち寄りがあったため、昨日は大阪南港20時零分発フェリーに搭乗。いつもより現場着が1時間20分遅くなり9時半となる。

現場はスリーブの日。スリーブというのは直訳したら何かわからぬが、コンクリートを打つ前に紙パイプを型枠の間に差し込んでおいて、あとで排水や給水の管をらくらくと入れられるようにすること。これを忘れると後でカッターで開けなければならない。鉄筋を痛めずに開けるのは大変だから今のうちに真剣勝負しておきたいところだ。設備はもとより電気ガスも取り付けに来るが、それまでに現場にいてくれるだろうか。

バス停留所からバッグを引いて道を急いでいると現場のほうから作業車がすれ違っていった。やっとプロシードにたどり着くと、いそうなのは電気屋サイだけか。「設備屋さん今さっき帰っていったけん」そうかやっぱり。「スリーブもういれましたか?」「結局ここの分電盤のところに2箇所入れただけです。あとは電話など基礎沿いに立ち上げてボックスでジョイント、土台下からいれます。」「まあ、それはそれでいい。ありがとうございます。」基礎の途中に入れたスリーブは何?ガスって書いてある。これは打ち合わせ外だ。みっともないというやつ。連絡して基礎底に変更してもらおう。

現場、型枠屋が立ち上がりの打ち放し型枠を搬入中。

さて問題は設備だ。確か配管図とスリーブ図を設備屋さんからもらっていたが、ばたばたしてあまり見ていないし、どこかに紛れてしまった。ええい、平面図と見比べながら決めていこう。納屋組マナが補佐役で。マナが図面持っているわけではない。家族浴室、浴槽の窓を2枚引き違いにして山が見えるように、栓の位置が南になっていいのだが。浴室詳細図面がない。マナに聞くと詳細図では浴槽の向き反対になっているそうだ。平面図がいい。南にカラン北にシャワーカランとしてスリーブ入れよう。給湯は土台下から入れる。渡り廊下土間低い立ち上がりに給水スリーブが。これは南側の下流し用。マナに聞くとキッチン横に分岐したらいいという。キッチン排水は点検口下までスリーブが。マナは点検口横通すので問題ないという。それから妻の間あたりにある汚水雑排水スリーブ。マナがこれは2階便所からではないかと、確かにそれしかない。マナよく知ってる。それで、縦排水が柱間だそうで、しかし土台基礎で当たるので、床上で横に振るしかない。だから反対側の収納側にふって便所下から出すことにする。母親棟は概ねオーケー。風呂排水の位置がわかっているのでマナの指示寸法に変更。それから便所への給水がないので、入れておく。これでチェック終了、変更箇所は水道屋さんに再度現場に来てもらう。水道屋は現場のすぐ近くと聞いているので都合がいい。


オヤジも登場。黒板に書き込んで記録写真をとっている。さすが、民間にもかかわらず言わずともここまでやっているところは少ないんじゃないか。

程なく2人の職人さん登場。年配の方、設備屋にしてはおとなしそうな感じ。(スリーブから来たからリブと呼ぶ)ひとつずつ相談しながら納得の上だから変更作業もスムーズ。途中ガス屋さんも参上。

実はこの一連のスリーブ変更手続きの取り込み中、納屋組番頭より連絡あり。10y邸で薪ストーブ以下何点かの課題が二転三転しているらしい。先生がほったらかしにしているから、と批難めいている。バトに事情聞いて対策を立てることにするが、ああ忙しい。

立ち上がり型枠の手順を見ておく。まず内側から建て込み。使い込み型枠なので、レーザーによりレベル出しして、釘うち、墨をつける。次にスペーサーの穴をドリルあけ。ピーコンをつけた150幅のスペーサー取り付け。午前終了。

先ほどの10y邸、どうも10yさんの最終判断と納屋組の段取りの歯車がかみ合っていないようだ。昼弁当早々に済ませて、メールを打つことにする。

10yさま、お世話になります。昨日現場見させていただきました。おかげさまで10yさまのご要望に沿うものが順調に形になってきました。 薪ストーブの件、納屋組選考の一案より奥行きサイズが小さくしかも量販店用です。ネット販売もそうですが売れやすくする工夫のある機種。設計段階でストーブ詳細図面もつくり、予算も最終的には組み込んでいます。それでも、現場最終のここにきて10yさまが金額を下げるお気持ちは・・。 金額にこだわるなら、たとえば外壁仕上げでお選びになったコテ押さえ仕上げは、他の撫で切りという粗仕上げより手間代アップしますから、そうお伝えしなければなりません。いまのところそうなっていないのは、職人さんがいいものをつくってあげたいという心をもたれているからでしょう。そう解釈してこちらからは値段について余分に聞いていないのです。 私たちにとってもお金は大切ですから、1円でもおろそかにせずご報告できるようにしています。またお金に翻弄されないことも厳しく自命しています。長文となりましたが、ご理解のほどよろしくお願いします。 なお薪ストーブの現時点でのお答えは、その機種をどうしてもというなら、ご自分で購入設置してくださいということになります。なおこの件電話もさせていただきます。






現場速報-10Y邸番外


登場人物
  • オム:大工さん、若い青年。
  • タオ:左官屋さん。


1ヶ月ぶりの現場ということで、不安と期待交じり向かう。日中の移動ということもあって、今回は時間優先、乗り換え苦にせず駅到着。納屋組バトに送迎お願いする。普段はできるだけ現場の邪魔にならぬようバス利用になるが、時間がない。

足場シートに隠れているが北側から見る瓦屋根など建物印象は変わらない。

ただ北側の外壁は列柱の感じに、雨戸建具の横枠が2間にわたり入ってひとつのアクセント。柱だけが並んでいるならどこにでも見かけるわけだから。

玄関ポーチ兼用テラスからみるダイニング越のアイランドキッチン。ダイニングテーブルも低めにセットすれば、親しみのある土間、床連続空間となるのではないか。また内部も基本的には大きく変化はなく一安心。細部にわたって手が加えられて完成間近の印象で、これで納品したての建具がとりついて落ち着くであろう。

初めて見かける大工さんが黙々と作業中。常連参加の大工さん(オム)はキッチン引き出し取り付け中。軽く会釈を交わす。かつては家具屋さんが工場でつくっていたあったキッチン製作が造作工事に組み込まれ、今回はじめて現場でつくっている。10年かけた歴史的なエポックかもしれない。窓廻りの雰囲気などもチェック。北東の食品庫の地窓も風が通り抜けそう。キッチンから、リビング奥からみる南側の開口部も十分にある。ポーチに外壁漆喰の色見本が5種類置いてある。左官屋(タオ)さんに、下地ラスモルタルかかる最初にサンプルで作ってもらっている。1週間程度下地作業かかるので、その間に色仕様決めれば段取りがよい。タオの所持する色粉、パーフェクチンというもの、年季の入った箱入り。

付近にあった瓦と並べてみたり、近隣の家の壁色と比べてみたり。バトに聞くと最初に作ったのが黄色みのコテ押さえ、10yさんの要望の校庭の土色に近いという。南仏プロバンス風でこれがいいのではと感じた。ポーチの立ち上がりの打ち放しコンの仕上げ、玄関内だけレンガ張ることにする。

バトからトイレ収納について相談あり。トイレ収納は必須なので、適当な場所がない場合苦労するが、今回はピアノスペースの棚との表裏セットで考えよう。また10yさんから多数来ている変更要望に対処するためのレクチャー、一通り理解。明日にでもご返事することに。そうこうしているうち時間が迫ってきてバト運転古アルトで帰路へ。途中コーナンへ寄ってキッチン引き出しのステン巻きパイプ購入。駅に5時、既にいつものフェリーは無理かも、チアに調べてもらうと今回は大阪発別便でいくことになった。