シーダ・バーンのブログへようこそ。
これから家を建てようと思う人に伝えたい建築家の日々の仕事ぶりを綴っています。
学生さん、社会人の方々にも参考になれば幸いです。
なお、当ブログでは、人物、場所、日時等が特定できるような表現を控えています。



講義録-第3回101014


講義前のひととき


本日の講義案内
 おはようございます。今日は3回目の講義です。前2回で少し様子もわかってきましたので、講義の行程を考えました。まずは最近の話題に思ったことを話すトピックを10分。次に講義と並行して進んでいる現場速報を20分。施工に関する説明に20分。前回教科書的な資料がないというリクエストがありましたので、皆さんに配布したコピーを見ていただきます。つぎに質疑応答25分ですが、質問にお答えする時にその学生さんの顔が見たいので予めお呼びした方は、この白板に書いてあるように前列の席に移動してください。最後に今日の講義の感想、質問などを書いていただく5分間で合計80分とします。予定通り進むか心配ですが、よろしくお願いします。



トピック
それではまずトピックから始めましょう。野球の話です。阪神タイガースのマートンという新参の外人選手が年間安打数の新記録を打ち立てたというニュースがありました。

今までの記録はあのイチロー選手が長く持っていて、なかなか超えられなかったんですね。そのイチローがアメリカの大リーグに移籍したんですが、その彼をどうこう言うわけではなくて、いわゆるイチロー報道というものにかねがね違和感を抱いていました。移籍当初から伝わってくる情報は、昨日の試合では何安打打ったとか、これで何試合連続安打とかいう報道ですね。その結果、今度は200本安打まであと何本とか、つまりほとんど毎年、毎日、安打数の報道なのですね。もちろん打率とかも高い数字なのですが、これは首位打者になるかならないかが大きな問題らしく、数年に限られた記憶があります。

でも、ちょっと待ってください。野球に限りませんが、こういうスポーツって個人記録は大事ですが、その前にフォア・ザ・チームといって、チームがチャンピオンになるために選手各人がチームワークを駆使して働くことがスポーツマンシップの鑑とされるもんではなかったのですか?イチローは左バッターで足が速いから内野安打が多く、安打数が稼ぎやすいんですね。

しかし、その反面、1塁走者を進塁させられないとか2塁走者を生還させられないという弱みも出てくるんですね。長打を警戒する四球も得にくいですし。安打数だけでチームの勝利に貢献するかどうか評価するのは微妙なところです。

実際在籍してきたマリナーズは毎年リーグ優勝から見放されている球団です。イチロー報道はスポーツの本質から外れたところで、わかりやすい数字報道に徹したのではないかと?連続200本安打などの日本人としてだけでなく前人未踏の記録的報道になかなか本当のところが伝わらないのではと思っていました。そこにこの新記録樹立があったものですから、この記者はイチローの真実、とばかりに書きたてたのでは思うくらい、数字を挙げて両者を比較しています。私がかねがね抱いていた違和感を晴らしてくれたのですね。

今年のイチローは驚いたことに、安打数が増えればチームの負けが込むという現象があったらしい。チームも低迷、「孤独な安打製造器」とまで言い切っています。決してイチローのもつ高い技能を貶めている気持ちはないのですが、あたかも主役的存在として称揚するような報道は勘弁して欲しいということなんですね。いぶし銀のような存在として高い年棒を得てくれるのはかまいませんが。

さて、もうひとつ新聞記事で気になったものがありました。この方は以前コンピュータ社会を云々していた先生ですが、昨今、テレビや書籍で流行している、わかりやすい解説に言及しています。「わかりやすく」の解説は、結局問題の単純化であり、予定調和してひとつの単純な答えに至る。そうではなくて、わかりやすく難しいと示してくれる、その問題がなぜ単純でないかを示してくれるほうに意味を見出しているようです。

このことで私にも思うことがあります。震災があった直後、建築家などがボランティアで耐震調査を立ち上げ、私もその調査に参加したことがあります。行政も緊急に耐震判定というもので、解体の補助金を出すなど動いていたときですね。たしかに私はヒアリング、実態調査は大切に思って参加したのです。

そのとき覚えているのは、いっしょに行動した学生さんに、建築家と学生というコンビで各家庭に伺うといったシステムだったんですが、「こういうことは体験するだけで貴重だよ。調査した数字を編集したり、結論などを出すことは控えたほうがいいよ。」と伝えた覚えがあります。私は、当時どの程度の知識があったかは覚えていないのですが、耐震壁理論に疑問を抱いていたのですね。

というのも、私の父母の家が昭和初期の家で、南面は壁がほとんどない2階建てで筋交いなども入っていないような工法だったにもかかわらず、瓦を多少落としただけで壊れなかったんですね。ですから壁量や壁配置を重視する調査にはすでに、直感的、経験的に違和感を感じていたわけです。全壊半壊という判定で解体補助金が出る出ないという制度も悩ましいものでした。

当時はまだ勉強不足で、というか誰もそういうことは教えてくれませんから、家が傾いてしまうと、いづれ倒壊の危険性があるから解体したほうがいいとも思っていたんです。その後、木造に関する本を読んで、きちんとした日本建築だったら粘りというものが効いて、ある程度傾いてとまるというかまた戻るような構造だと思うようになったわけです。

(クリックして拡大)
ところで、その調査結果というのが、後日公表されて、やはり壁が足りなかった、配置のバランスが悪かったから建物が倒壊したというものだったんですね。しかしそれは倒れた建物をみているだけの結論で十分ではないのではと思いました。私の父母の家のように壁がなくても倒れなかった家には実際、私以外誰も訪れることはなかったのです。

耐震壁云々の説明はわかりやすいのですが、それだけでは説明できない日本建築のすごさというのにはイメージが及ばない結論なのです。耐震壁理論のイメージがもとにあって、調査結果を予定調和的に答えに至ったものではないですか。

先ほどのイチロー報道もそうですが、数字やデータにだけとらわれて説明するということがわかりやすい反面、本当の姿を見失う落とし穴にはまってしまっているのではないかと思います。



現場速報
現場速報に移ります。さて今日は、皆様のお手元に資料配布しました。前回にアンケートしていただいた中に、2、3教科書的なものがないのかというお尋ねがあって、私自身は気に入った施工・積算の本が見当たらない理由で教科書は購入していただかないようにしていたのですが、やはり何か手がかり的なのものとして必要なんだなと思い、石井勉監修「よくわかる建築・土木」(西東社、ISBN4-7916-0177-7)という本の抜粋をコピーしました。挿絵や図表が入っていて結構気に入った本なのですが、土木工事も入っているので、一部コピーしたわけです。どうぞ補足資料としてお読みください。
ブログでは講義でお見せした大量の写真とその都度の解説がありませんから、個別に大事な写真と解説をこの欄で入れていきます。専門用語などの解説も兼ねます。


 1. 現場速報



 2. 用語解説

  • 墨付け:木材をカットする前に目印の線などを引いておく作業ですね。設計者が模型を作るときに鉛筆で薄い線を引く作業に相当します。この線は、竹のペンのようなもので、墨を付けて書いていきます。一昔前設計者が烏口で図面を書いていたようなもので、世代によっては懐かしさを覚えます。長い線の場合は墨壷を通した糸を、ぴんと張りおろします。随分昔風な仕方ですね。ところで近年はプレカットという機械加工が流行っていますから、このような手作業が敬遠されるに至っています。私も以前は、それが近代化だと思いましたが、今は手作業のほうを尊重しています。なお、墨付け作業は棟梁といわれるトップの大工さんが取り組むことになっています。

  • 刻み:墨付けした木材を切り刻むこと。鋸やドリルで穴を開ける、鉋で削るなど、主に手下の大工が総勢でかかります。墨付けから刻みまで通常の家で一軒あたり約1か月から1ヵ月半かかります。



  • 太鼓梁:木材の両側を製材し上下を残すと太鼓のような形状になる。丸太では荒々しいが、程よく木材の自然な感じが残ります。丸太と同じく、上下の位置が定まらないので墨付けに手間がかかります。寸法は末口何寸などと指定します。上面を削ると3面摺りとなり、梁の下面を楽しみながら墨付け手間も軽減できるものです。もちろん通常はこれは加工手間や保管などの合理性から4面製材となるのです。

  • 墨壷:朱肉ならぬ墨肉に糸を通しその糸で直線を描く便利な道具。基礎工事や瓦工事、タイルレンガ工事などにも登場しますよ。最先端のレーザーなどの発達にもめげず、その異様とも思える姿は健在です。





  • 大工さんの図面、ベニヤ板:私たちは紙に図面描いたり、キャドということになりますが、大工さんは昔ながらといってもベニヤ板ですが、1枚の大きな板に見上図、伏図的に書き込むんですね。設計図と違って物つくりのために描く施工図の原点です。これだったら現場の荒仕事にも丈夫で見失なうことはないということでしょう。

  • ツイン・マスター:ひとつの家では通常一人の棟梁に任すわけですが、今回は設計も分節といって、離れや増築的に分けていますし、それぞれ2つの棟で棟梁の手がちがうという手法を使いました。あたかも長い時間を経て家が建っていくというイメージで、この大きな住宅を理解していこう、あるいは馴染んでもらおうという趣旨です。大げさに言えば、ヨーロッパの建築、それからガウディの聖家族教会のように何世代もの職人の手を経るという施工イメージです。棟梁にとっては多少やりにくい?相手を意識するかもしれませんが、各々気にせず自分の仕事してくださいといっておきました。馴れ合いを防ぐ刺激、緊張感、よい意味での効果もあるかなと。それでも、棟梁が一度した打合せしたいということで会ってもらったわけです。木造住宅はじめてから10年目での試みです。ただ私は立会いできなかったので、チアが代理で行ったのですが大工言葉の応酬で何がなんだか分からなかったという報告ありました。これも刺激で、今後よく勉強して欲しいですね。




Q&A

Q.(Sさん)基礎工事をする人たちは基礎のことしかやらないのですか?
A.基礎工事というのは建築、住宅にとって大切な部分の工事ですね。でも実際の話、電話帳を探そうとしても基礎工事という分野がないのでたいへんです。大体が土木建築工事として登録されているので、どんな会社が基礎工事、特に住宅の基礎を得意としているかわかりづらいのです。基礎工事する人は、プロフェッショナル化、分業化、専門化されています。知り合いの○○工匠という会社があり、解体屋さんであり基礎屋さんでもあります。こういう事例もある一方、分業化の流れで、基礎工事以外には関わらない、直接は関わりにくくなっているというのが現状といえましょう。


Q.(Hさん)発掘された大きな石はどのようにして使ったのですか?
A.束柱として、11月あたりで上棟しますからそのときのお楽しみですね。


Q.(Fさん)現場の職人が設計者にばれないように仕事を隠すこともあるんですか?
A.お施主さんで夜勤の方がいて、昼間からいつも現場に付きっ切りだったことがありました。職人は自分の仕事を見られるのをイヤがっていました。そのためかどうか、そのお施主さんに限ってあいさつしなくなってしまったんです。とうとう、その職人は態度が悪いから差し替えてくれと。でも仕事ぶりはまじめな人なので、できるだけ近づかないようお願いしました。プロ=マジシャンと考えてみてください。先生にはみられてもいいんです、裏も表も知ってる人ですから。だけれども素人に見られるとなあ~だということになってしまいます。つまり、職人というのは、仕事を人に見せるものではなく、見えないところでコツコツとやるのです。











以上終了