10F様のご見学の様子を3回に分けて配信いたします。
「高気密高断熱の家にはよう住まん」
再び応接間にて。先生しばし席をはずしている間、
ご夫婦、テーブルに鎮座するアヤと遊ぶ。先生戻り・・・。
ご夫婦 ここは本当に風がよく動きますね。ビューと通るんじゃなくて、そよそよという感じで。
先生 バラが生い茂って、ここはあまり風が通りませんが、夏の西陽の激しさは全くないですね。小学校くらいの時に、土間に床を張って、ダイニングキッチンができて、流行のPタイルに、窓も白くして、天井もボードにして、あの時はすごく嬉しかったですね。でも本当は昔のままでも良い家だったんです。両親が亡くなって、改めて整理すると、本当に良い家だというのが分かりました。小さい頃の記憶というのは絶対忘れられません。この座敷は本当は畳の予定だったんですが、家内に反対されまして。年に何回か畳を上げないといけないから。そうでないと湿気もたまるしダニの問題も出てきます。畳の上で往生するという夢がありましたが、板のほうがいいか、と。とにかく古くからあるものがいいですよ。僕も30年間寄り道して過ごしましたから。
ご主人 古民家は骨組みの演出がありますよね。それをなくして壁を張り替えるという考えがあったり、結婚して3年間マンションに住んで、その快適さもいいかなと思うようになった。
先生 私の中にはもうないですけどね。20年近くいろんなビルやマンション設計しましたが、木造にたずさわり始めてからはこの家造りに専念してます。失敗したり、喜んだり、誰も教えてくれませんから。お客さんも先生です。
屋根の扱い方ですが、土乗せ瓦はちょっと暑い気がします。隣のアトリエは土を筋載せしましたから、今はちょっと暑いですね。シーダ・バーンは野地板を厚くして住んでいます。自分では実感として暑さ寒さの評価ができるのですが、数値的以外のなんとも言えないところがあります。
アルミサッシ、断熱材、これは40年前からの考えですから、まだ評価が定まっていないのです。「断」というのは自然を断るということですから。見方によってはナンセンスなところがあるかもしれません。
ご主人 最近モデルハウスによく行くんですが、ついこないだ最新の高気密高断熱という家に行きまして、そしたら、もう、耳のこのへんがぐっと押されるような、それで24時間換気扇の音でしょ、こんなとこにはよう住まん!思いましたね。
先生 新しいことを考えていかなければならない時代です。古いものがいいというのは一部だけです。近代資本主義の中では許されざる論理ですから。でもニーズはしぶとくあります。
ご主人 間取りも、古い家は全部ふすまで、今の家に比べたらスカスカですけど、全部がつながってるという感じが、僕の中にはありますね。思春期のとき、父親に、お前が扉閉めたら蹴り飛ばしてでも開けたる、扉いうのんは開けとくもんや。言われて、今になってなんか分かりますね。みんなひとつのつながりの中にいてる、ていう。僕も将来息子に同じこと言う日が来るんでしょうね。今回、その設計士さんとの作業で、新しい外枠の中に、つながりを持たせながら区切るという作業をやってて、何をどう区切ればいいんや?思うて。
先生 それは、私が一番興味あるところですから。40年間やってきてますから。一番重要ですよ。関係性、長い変化を考えながら。いまだに思わぬところで思わぬ空間ができたりして、自分の能力以上のものが出来るときがあります。
新築は1年くらい時間をいただいています。考える時間がその半分くらいです。暖かいときと寒いときの思想を自然に沿って入れたいですから。広いお宅はたいへんです。狭いところは関係性が少ないですけど、広いと相乗的に考える必要がありますから。それに日本は難しいですよ。特に関西の家は。文化の奥行きが深いですから。北海道、沖縄、あとヨーロッパやアメリカとは比べようがありません。スイス、ドイツにも行きましたが、ドイツ人は木組みができません。頭は良いのでしょうが器用さが違います。地震もないですから、対応の必要にも迫られないですしね。私の仕事は本当にやりがいのあるのではと思います。だけど、こういう時代ではあまり注目されない。昔の家は家ごとにちょっとずつ違っていました。その土地の材で違ったり。手作りだし、自然素材だから。今は素材が人工物だからすぐに飽きが来るんです。あと、私とこの家とお客さんの関係性でやっているので、ほかの家を見学というのはやっていません。それぞれの関係性が先に来るので、他の方との比較はしません。
家にあそびにくる生き物たち
(外の車の音)
ご主人 外が近いですね。
先生 ええ。もう、人工も自然も良いですね。
ご主人 僕らも、最近でこそ鍵閉めて家を出ますが、昔はしめてるかしめてないかよう分からん感じでしたもんね。まぁ、でもいろんなもん入ってきますけどね。イタチにハトに、去年はサルも入ってきましたね。
先生 サルというとあの有名な?
ご主人 ええ、家は駅から5分のところなんですけど。
先生 コウモリは?
ご主人 コウモリはいないですね。
先生 うちはコウモリが入ってきました。小次郎というネコがもう一匹いたんですが、すばやかったですね。入って来たと思ったらもう捕まえてました。
ご主人 あと、ハチがすごいですね。垂木、穴だらけですよ。書斎で静かに書き物してたら外でなんかカラカラカラゆう音するなあー?思うたらハチですねん。なんか卵産んで埋めてるようなことしてるんです。
先生 ハチは、赤味の堅い材を使うしかないですね。あれは巣作りの材料を集めてるんです。うちもよく持っていかれます。
ご主人 ここ10年くらいのことですよ。昔はそんなことなかったんですけどねえ。
先生 もう、木が少なくなってるんでしょうね。網戸はあるんですか?
ご主人 まぁ、実質ないですね。
奥様 というか、ないですよ。蚊取り線香がんがんに焚いてますね。
先生 初めてですね。網戸なくて大丈夫という方。
ご主人 彼女は虫がだめですから。何か入ってきたら電気を消して、外に出るまで待ってます。
先生 やさしいですね。うちなんか、バタッと一瞬ですよ。私たちより上手の自然生活ですね。
ご主人 ぼくは、そういうもんや思ってるんですけど、彼女はよく戦ってますね。
先生 お宅をぜひ、拝見させていただきたいですね。
ご主人 40年前の改装でだいぶ今風にはなってるんですけど、周りの人の話を聞いてると、いまだに土間の家やて覚えてくれてはりますね。土間はいま、半分ポーチ、半分居間という感じですね。
先生 土間は今、若い人のあこがれですからね。そういう中間的なところがあるといいですよね。広いお宅でしたら、畑とか、いろいろお楽しみがありますね。
奥様 ええ、もう3日放っといたらだめですね。
先生 お子様は?
ご主人 二歳の男の子ですね。彼にとっては良い家ですね。もう、どこでも好きなよう遊んでますねえ。靴履きやー、ゆうても、靴なしでどこへでも行ってますわ。
いやー、われわれも、もう一度考えなあかんな。なんでしっくりけえへんのかと言うところを。悪いとも思えへんけど、なんかちゃうねんなあ。
先生 よく知り合いの紹介というのがありますが、シーダ・バーンを始めてからは一見さんしかいなくなりました。関西は特に人のつながりを大事にする方ですが、もう紹介はなくなりました。昔は父親にさんざん言われました。あいさつ回りもゴルフもせんでやっていけるのか?と。私はそういうのは好きじゃないですから。設計の内容で勝負したい。なかなかたいへんでしたが、授かったといいますか。もうこれでダメだったら、下請けでも何でもがんばろうという気持ちでした。仲間にも散々いわれましたよ。まあ、でも、運よく食いつないでいます。良いものの価値観というのは、宣伝せずとも日本文化の底辺にもともとありますから。雑誌とかホームページとかで、ここにいますよ、というのを知ってもらうだけでいいんですよ。山に登るのと同じです。誰も宣伝しないけど、みんな行くでしょう。同じことですよ。
懐かしい風景 VS マンション暮らしの快適さ
ご主人 ここをさっき通ったときにね、木の間から屋根の一部がみえて、ああ、いつも見てる風景や思いました。瓦があってね。
先生 むかし、瓦屋さんの会に行ったときですよ。軽量瓦をプッシュして、それにすごく残念に思ったことがあります。方向性がちがいますからね。日本の瓦というのはもう完成してますから、いじる必要がないんです。それなのに随分新しい種類をつくって。
アルミサッシはお使いですか?
ご主人 お風呂場とトイレだけですね。
先生 つわものですねえー。私の家もお風呂場だけそうでした。私の父は合理主義者でして、ヨーロッパ大好きですから。それなのに晩年は自然が大事と言い出して。合理主義者の父にしてはエライ非合理な家だよなあ、なんて思ってたんですが。クラシック音楽が好きでね。そういう古くてよい部分をちゃんと見極めてたということですね。
アルミサッシはとっても難しい。熱を通しやすい。結露もする。作るとき、廃棄するときに費用がかかる。ただ加工しやすいだけですよ。これを使ったら建物全体のバランスが難しくなると私は思ってますから。なんだ、全部お分かりになってらっしゃいますね。
ご主人 そう思うんですがね、寒いのとか、すきま風とか、当たり前やと。ただ、マンションに住んでみて、この快適さもええかなと思うようになったといいますか。
先生 家内ともよく話すんですが、朝の冷え込みがダメなんです。外の環境のやわらげ方ですよ。重くて、分厚くて、洞窟のような空間がいい。今の家は軽くて魔法瓶のような家ですが、窓を開けたらその性能はなくなりますから。土瓶のような家でないと。ガラスもよくないです。障子がいいです。影も楽しめるし、暖かいですし。茶室を考えた人はすばらしいと思いますね。だからうちも、お風呂場のガラスをやめて板戸にしました。あと、贅沢ですが、雨戸とガラリ戸をつけて。夏はガラリ戸を使って、冬は雨戸を閉めると。
ご夫婦 なんか、家にいるのといっしょやなあ。
先生 だいたい男は頭で考えますから、ぐずぐず。逆に、奥様の方がばしっと決められるんじゃないですか。うちもそうですが。
ご主人 ええ、彼女はもうはっきり決まってる思いますね。
先生 大規模改造は構造計算、確認申請と必要ですから。それで設計士さんも壁のことを気になさるのでしょう。基準法にかかわる人はその世界に生きてますから、その世界に認めてもらうにはテクニックがいるんです。だけどそういうのは重要じゃないんです。何よりも出来たものが全てですから。その中で居心地が良いかです。それを図面やらなんやらというのは馬鹿らしい。暮らす人が満足するかどうかです。うちは現物主義ですから。それで施工も自分でみないと気がすまない。その代わり、ひとつひとつ各種工事の職人探さないといけないですがね。彼らは真面目ですし、値段もそこそこで、そういう人がまだいますから。全部私が責任を取ることになります。だから住宅しか専念するしかないんですよ。
ご主人 私の頭の中を一度整理せなあかんね。しっくりけえへんのは何か、ゆうのを考えないかんな。ちょっといっぺん考えて、整理します。
先生 ごゆっくり、じっくりと。
いつまでにというのはおありですか?
ご主人 ぼくは実はないんですがね。でもガタがきてるからなるべく早くとは思ってます。
先生 出来るだけ、私たちもご縁があれば幸いと思ってます。追っ掛けはしませんが。
ご主人 今日は長い間ありがとうございました。なんか、お悩み相談みたいになってしまって。住宅メーカーばっかり行ってましたから。
先生 シーダ・バーンもメーカーに劣らず最先端です。一周遅れた最先端ですよ。
ご主人 ええ、ホッとします。
先生 それではまたのお越しをお待ちしております。
ご夫婦 失礼します。ありがとうございました。
(おしまい)