シーダ・バーンのブログへようこそ。
これから家を建てようと思う人に伝えたい建築家の日々の仕事ぶりを綴っています。
学生さん、社会人の方々にも参考になれば幸いです。
なお、当ブログでは、人物、場所、日時等が特定できるような表現を控えています。



見学簿-10G様②



10G様ご見学の様子を3回に分けて配信いたします。




吹き抜けがいいなという家

奥様    展示場の住宅は真ん中が全部吹き抜けになっていて、その周りが子ども部屋なんです。完全に孤立させずに吹き抜けを囲んだ2階になっています。子どもの足音が聞こえるつくりで、そういうのはいいな、と思いました。
先生    それはこういうことですか。



奥様    あっ、そうです。

先生    この案は多少疑問にも思います。私なら、こうしますよ。この真ん中部分というのは小屋裏の天井が高くとれて一番良い場所ですから。家自体は普通の平屋に見えますし、ローコストになりますから。厚い床板1枚の部屋です。何かしていれば音が伝わりますが、上でお子さんが静かだったら寝てるか、何か悪いことしてるかのどっちかですから、すぐ分かります。吹き抜けがあって見えるとかじゃなくて、そういうコミュニケーションの仕方ですね。先ほどのプランはとてもリッチなプランです。目に付くようにやっています。視覚的に分かりやすいですから。設計者が考えた特殊な家です。ファンとか、照明とか付いてるんでしょうね。?

奥様    ええ、ファンが付いてました。こういうプランは考えたことがないので面白いですね。

先生    家は人が暮らして活きてくるものです。暮らしていないけれど、ピカピカの新築ものをみせるのがハウスメーカーです。先ほどの例というより、シーダ・バーンではこういう形の家が多いです。はじめは2階建て、お金に余裕があれば平屋増築するというイメージで、片流れ風の外観が多いんです。実際にアメリカの開拓者の家はそうした理由による外観の家が多く、これをソルトボックス・タイプと呼んでいます。塩を入れる箱に似ているからだそうですよ。シーダ・バーンの家って、和風ばかりでなく洋風を感じるのはそういったこともあるかと思っています。シーダ・バーンの柱は6寸、18×18センチです。こういう太い柱で造られてるお宅はあまりない。全部杉です。節もあるし、くるったり、割れたりしますが、ローコストの民家型、自然住宅となれば使わざるを得ない。私の場合は杉材が安いというところから入りましたが、材を大きくとれば強度もとれますから、安いだけではないんです。赤味材も良いですよ、水周りや土台などに。昔からいいものを受け継いでいるだけですから、それが売りというわけではないです。誰も使わない自然材を使っていこうというのも、私のひとつのコンセプトです。
       
        ものの良さというのは見た目も大事ですが、目を閉じたときのことが一番大事だと私は思っています。嗅覚、触覚そういうのが大事。猫ちゃんもそうです。気持ち良い場所が感覚的に分かりますから。それは人間にも言えることですよ。自然と一体になりながら暮らす、暑さ寒さは当たり前ですから。今はエコといっても24時間換気でしょう。でも分かる人には分かるんです。木の窓とかを見て。うちは気密性を追い求めてないですから木の窓になるわけで、決して贅沢だから使っているわけじゃない。

(息子さん、寝てしまわれる。)

奥様    すいません・・・今日ちょっと早めに来たんですが、道に迷ってしまって、暑い中たくさん歩いたので疲れたみたいです・・・。
        先生のホームページ見ましたが、ネットで見せてもらったものと違う感じで素敵ですね。先ほどの先生のプラン、今まで発想がなかったです、何か写真があれば見せていただけますか?(ニューハウス200510月号、20065月号をお見せする)

(娘さん、ノートを取り出してお絵かきを始める)

奥様    あ、この雑誌ですね。私が見た雑誌は。

先生            シーダ・バーンはモクセン板を使います。これで湿気、保温もします。床板はこれです。
小屋裏は日本では熱がこもると思われていてあまり居室として使われてきていませんが、海外では部屋としても使われてきました。費用のない若い方は部屋にも合理性を求めますから、日本の家でも小屋裏部屋もとればいいのです。
       
奥様    床板の表面と中と色がちがいますが、どうしてですか?

先生    これは表面に柿渋を塗ってます。杉材は白太と赤味が混じったある意味不ぞろいの色合いなので、柿渋で色を合わせてます。

奥様    FK邸ともストーブを使われていますが暖かいですか?

先生    見た目もそうですが、輻射熱ですから、じわっとあったかいです。石油ストーブともエアコンともちがいますね。寒さに身体は慣れるもんなんです。冷え込む場合と蒸し暑さの場合にどう対処するかですね。機械ではなく、土や軒の出、水まきとか、そういう方法を使って、対処します。人為的にそういうことをやったらエコだとか、地球にやさしいという考え方もありますが。何とかソーラーもそうですね。ご存知ですか?

奥様    ええ。

先生    空気を使用して、熱に換えるという。空気というのは本来吸うもの、感じるものです。その日によってちがいます。空気が流れて音・香りを運んできてくれたり。そういうのを五感で感じることが大事です。単に空気をものとして熱のために使うというのはある種合理的なのですが。冬でも風通しは多少必要です。一方で夏はたくさん風を通すという、1年中風が通っていることが大切です。

奥様    F邸のお宅は2階部分は間仕切りがなくスコーンと抜けてる感じですか?

先生    ええ、そうなんです。風呂屋の2階みたいでしょう?

奥様    入り口もおしゃれですねえ。なかなか入り口までこんな、ないですよね。

先生    いや、ほんとないですから。日本では。

奥様    この足元のはなんですか?

先生    ワンちゃんの出入口ですね。

奥様    色々みせてもらいましたが、細かいところの木のつくりがかわいいなと。

先生    K邸の洗面の部分は奥様のセルフです。木を組むところ。これだけは経験のある人にお願いして、そのあとは自分でも大丈夫です。あまり完成させた家をつくらないという一例です。仕切りもあまりつくりません。このように、最初に溝だけ掘っておくんです。必要になったら建具を追加できますから。

奥様    薪ストーブ、主人の前の会社で扱っていて良いなあ、と思ってました。

先生    展示場にはストーブも置いてありますか?

奥様    あまりないですね。

先生    ガス、電気屋さんの対抗商品ですから宣伝も限られています。本当はすごく良いものなんですが、手間がかかるということもあります。では少し見学なさいますか。


につづく)




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見学簿-10G様①

10G様ご見学の様子を3回に分けて配信いたします。




木のおうちに興味があります

先生    どんな雑誌をご覧になられましたか?

奥様    雑誌の名前は忘れましたが、ツタヤに併設されているカフェで時間つぶしをしていた時に見かけた雑誌でした。家のことを考えるのが好きで、良くそういう雑誌を読むんですけど、その雑誌はあまり見たことがなかったので手に取りまして。雑誌名は覚えてないんですが。

先生    ご覧になってどういうところが気にいられたのですか?


奥様    木のおうちが好きで、チルチンびとを時々買って読むんですけど、この家のここは好きだけどここは嫌いというのがあって。でも先生のはすごくいいなぁと思いまして。これまでいくつか木のおうちを見せてもらったんです。こないだあるハウスメーカーさんの展示場で自然住宅を見せてもらったんですけど、構造から何から何まで集成材なんですね。うちの主人も、集成材は科学的にはいいけど、データが少ないからあまり信用できないと言ってまして。

先生    ご主人は何かそういう関連のお仕事をなさっておられるんですか?

奥様    ええ、木材関連の仕事です。輸入の商社で、主に洋材を扱っています。国産材も少し扱ってはいるみたいです。

先生    それで何故うちに?

奥様    中まで見られるところがあまりないので・・・

先生    そうですか・・。(特に暮らしているところ、見れないかもしれないなぁ。)何かご計画とかご予定があるんですか?

奥様    特にはないんですが、いくつか見て、いざというときのためにと思ってます。もうひとり上の子がいてるんですけど、喘息があって化学物質にも反応するので、そういう意味での関心もあります。

先生    うちは木の家というだけが売りではないですが、集成材とか、新しい建材は使いません。昔からある材を使うと。

奥様    子どもが木が好きで、飛騨のほうの自然村にも行きました。あと、愛知県での植林なんかも行かせてもらいました。

先生    そうですか。

奥様    集成材を使ったエコな住宅というのが北摂のほうで流行ってまして、外で人が待ってるくらいなんです。西岡棟梁さんの本も読みまして、いくら安くても集成材はちょっと・・と思ってまして。最近はアレルギーの子どもも多いですし。

先生    すごい宣伝効果ですね。ビラとか新聞広告とかですか。

奥様    ビラもそうですね。看板がたくさんありますね。集成材といってもきれいについでるから見た目じゃ分からないし。

先生    接着剤の耐用年数というのがありますが、近年は技術革新でそう短いものではないようです。100年の住宅にふさわしいかどうかは分かりませんが、そういう技術にコストをかけることが本来の姿から離れていくのではないかと思っています。もともとの木は切って乾かすだけで使えるのですから。何かプラスはあるかもしれないけど、マイナスもある。あまりよくない例をごらんになって、こちらへ来られるというのは私も本意ではないです。同業としてやっておられる方たちですから、批判などはできませんが、私はそういう集成材には関心ないだけです。それにしても良く勉強されてますね。



につづく)


見学簿-10F様③


10F様のご見学の様子を3回に分けて配信いたします。



「高気密高断熱の家にはよう住まん」

再び応接間にて。先生しばし席をはずしている間、
ご夫婦、テーブルに鎮座するアヤと遊ぶ。先生戻り・・・。

ご夫婦    ここは本当に風がよく動きますね。ビューと通るんじゃなくて、そよそよという感じで。

先生       バラが生い茂って、ここはあまり風が通りませんが、夏の西陽の激しさは全くないですね。小学校くらいの時に、土間に床を張って、ダイニングキッチンができて、流行のPタイルに、窓も白くして、天井もボードにして、あの時はすごく嬉しかったですね。でも本当は昔のままでも良い家だったんです。両親が亡くなって、改めて整理すると、本当に良い家だというのが分かりました。小さい頃の記憶というのは絶対忘れられません。この座敷は本当は畳の予定だったんですが、家内に反対されまして。年に何回か畳を上げないといけないから。そうでないと湿気もたまるしダニの問題も出てきます。畳の上で往生するという夢がありましたが、板のほうがいいか、と。とにかく古くからあるものがいいですよ。僕も30年間寄り道して過ごしましたから。

ご主人    古民家は骨組みの演出がありますよね。それをなくして壁を張り替えるという考えがあったり、結婚して3年間マンションに住んで、その快適さもいいかなと思うようになった。

先生       私の中にはもうないですけどね。20年近くいろんなビルやマンション設計しましたが、木造にたずさわり始めてからはこの家造りに専念してます。失敗したり、喜んだり、誰も教えてくれませんから。お客さんも先生です。

              屋根の扱い方ですが、土乗せ瓦はちょっと暑い気がします。隣のアトリエは土を筋載せしましたから、今はちょっと暑いですね。シーダ・バーンは野地板を厚くして住んでいます。自分では実感として暑さ寒さの評価ができるのですが、数値的以外のなんとも言えないところがあります。

              アルミサッシ、断熱材、これは40年前からの考えですから、まだ評価が定まっていないのです。「断」というのは自然を断るということですから。見方によってはナンセンスなところがあるかもしれません。

ご主人    最近モデルハウスによく行くんですが、ついこないだ最新の高気密高断熱という家に行きまして、そしたら、もう、耳のこのへんがぐっと押されるような、それで24時間換気扇の音でしょ、こんなとこにはよう住まん!思いましたね。

先生       新しいことを考えていかなければならない時代です。古いものがいいというのは一部だけです。近代資本主義の中では許されざる論理ですから。でもニーズはしぶとくあります。

ご主人    間取りも、古い家は全部ふすまで、今の家に比べたらスカスカですけど、全部がつながってるという感じが、僕の中にはありますね。思春期のとき、父親に、お前が扉閉めたら蹴り飛ばしてでも開けたる、扉いうのんは開けとくもんや。言われて、今になってなんか分かりますね。みんなひとつのつながりの中にいてる、ていう。僕も将来息子に同じこと言う日が来るんでしょうね。今回、その設計士さんとの作業で、新しい外枠の中に、つながりを持たせながら区切るという作業をやってて、何をどう区切ればいいんや?思うて。

先生       それは、私が一番興味あるところですから。40年間やってきてますから。一番重要ですよ。関係性、長い変化を考えながら。いまだに思わぬところで思わぬ空間ができたりして、自分の能力以上のものが出来るときがあります。

新築は1年くらい時間をいただいています。考える時間がその半分くらいです。暖かいときと寒いときの思想を自然に沿って入れたいですから。広いお宅はたいへんです。狭いところは関係性が少ないですけど、広いと相乗的に考える必要がありますから。それに日本は難しいですよ。特に関西の家は。文化の奥行きが深いですから。北海道、沖縄、あとヨーロッパやアメリカとは比べようがありません。スイス、ドイツにも行きましたが、ドイツ人は木組みができません。頭は良いのでしょうが器用さが違います。地震もないですから、対応の必要にも迫られないですしね。私の仕事は本当にやりがいのあるのではと思います。だけど、こういう時代ではあまり注目されない。昔の家は家ごとにちょっとずつ違っていました。その土地の材で違ったり。手作りだし、自然素材だから。今は素材が人工物だからすぐに飽きが来るんです。あと、私とこの家とお客さんの関係性でやっているので、ほかの家を見学というのはやっていません。それぞれの関係性が先に来るので、他の方との比較はしません。


家にあそびにくる生き物たち

(外の車の音)

ご主人    外が近いですね。

先生       ええ。もう、人工も自然も良いですね。

ご主人    僕らも、最近でこそ鍵閉めて家を出ますが、昔はしめてるかしめてないかよう分からん感じでしたもんね。まぁ、でもいろんなもん入ってきますけどね。イタチにハトに、去年はサルも入ってきましたね。

先生       サルというとあの有名な?

ご主人    ええ、家は駅から5分のところなんですけど。

先生       コウモリは?

ご主人    コウモリはいないですね。

先生       うちはコウモリが入ってきました。小次郎というネコがもう一匹いたんですが、すばやかったですね。入って来たと思ったらもう捕まえてました。

ご主人    あと、ハチがすごいですね。垂木、穴だらけですよ。書斎で静かに書き物してたら外でなんかカラカラカラゆう音するなあー?思うたらハチですねん。なんか卵産んで埋めてるようなことしてるんです。

先生       ハチは、赤味の堅い材を使うしかないですね。あれは巣作りの材料を集めてるんです。うちもよく持っていかれます。

ご主人    ここ10年くらいのことですよ。昔はそんなことなかったんですけどねえ。

先生       もう、木が少なくなってるんでしょうね。網戸はあるんですか?

ご主人    まぁ、実質ないですね。

奥様       というか、ないですよ。蚊取り線香がんがんに焚いてますね。

先生       初めてですね。網戸なくて大丈夫という方。

ご主人    彼女は虫がだめですから。何か入ってきたら電気を消して、外に出るまで待ってます。

先生       やさしいですね。うちなんか、バタッと一瞬ですよ。私たちより上手の自然生活ですね。

ご主人    ぼくは、そういうもんや思ってるんですけど、彼女はよく戦ってますね。

先生       お宅をぜひ、拝見させていただきたいですね。

ご主人    40年前の改装でだいぶ今風にはなってるんですけど、周りの人の話を聞いてると、いまだに土間の家やて覚えてくれてはりますね。土間はいま、半分ポーチ、半分居間という感じですね。

先生       土間は今、若い人のあこがれですからね。そういう中間的なところがあるといいですよね。広いお宅でしたら、畑とか、いろいろお楽しみがありますね。

奥様       ええ、もう3日放っといたらだめですね。

先生       お子様は?

ご主人    二歳の男の子ですね。彼にとっては良い家ですね。もう、どこでも好きなよう遊んでますねえ。靴履きやー、ゆうても、靴なしでどこへでも行ってますわ。

              いやー、われわれも、もう一度考えなあかんな。なんでしっくりけえへんのかと言うところを。悪いとも思えへんけど、なんかちゃうねんなあ。

先生       よく知り合いの紹介というのがありますが、シーダ・バーンを始めてからは一見さんしかいなくなりました。関西は特に人のつながりを大事にする方ですが、もう紹介はなくなりました。昔は父親にさんざん言われました。あいさつ回りもゴルフもせんでやっていけるのか?と。私はそういうのは好きじゃないですから。設計の内容で勝負したい。なかなかたいへんでしたが、授かったといいますか。もうこれでダメだったら、下請けでも何でもがんばろうという気持ちでした。仲間にも散々いわれましたよ。まあ、でも、運よく食いつないでいます。良いものの価値観というのは、宣伝せずとも日本文化の底辺にもともとありますから。雑誌とかホームページとかで、ここにいますよ、というのを知ってもらうだけでいいんですよ。山に登るのと同じです。誰も宣伝しないけど、みんな行くでしょう。同じことですよ。



懐かしい風景 VS マンション暮らしの快適さ

ご主人    ここをさっき通ったときにね、木の間から屋根の一部がみえて、ああ、いつも見てる風景や思いました。瓦があってね。

先生       むかし、瓦屋さんの会に行ったときですよ。軽量瓦をプッシュして、それにすごく残念に思ったことがあります。方向性がちがいますからね。日本の瓦というのはもう完成してますから、いじる必要がないんです。それなのに随分新しい種類をつくって。
アルミサッシはお使いですか?

ご主人    お風呂場とトイレだけですね。

先生       つわものですねえー。私の家もお風呂場だけそうでした。私の父は合理主義者でして、ヨーロッパ大好きですから。それなのに晩年は自然が大事と言い出して。合理主義者の父にしてはエライ非合理な家だよなあ、なんて思ってたんですが。クラシック音楽が好きでね。そういう古くてよい部分をちゃんと見極めてたということですね。

              アルミサッシはとっても難しい。熱を通しやすい。結露もする。作るとき、廃棄するときに費用がかかる。ただ加工しやすいだけですよ。これを使ったら建物全体のバランスが難しくなると私は思ってますから。なんだ、全部お分かりになってらっしゃいますね。

ご主人    そう思うんですがね、寒いのとか、すきま風とか、当たり前やと。ただ、マンションに住んでみて、この快適さもええかなと思うようになったといいますか。

先生       家内ともよく話すんですが、朝の冷え込みがダメなんです。外の環境のやわらげ方ですよ。重くて、分厚くて、洞窟のような空間がいい。今の家は軽くて魔法瓶のような家ですが、窓を開けたらその性能はなくなりますから。土瓶のような家でないと。ガラスもよくないです。障子がいいです。影も楽しめるし、暖かいですし。茶室を考えた人はすばらしいと思いますね。だからうちも、お風呂場のガラスをやめて板戸にしました。あと、贅沢ですが、雨戸とガラリ戸をつけて。夏はガラリ戸を使って、冬は雨戸を閉めると。

ご夫婦    なんか、家にいるのといっしょやなあ。

先生       だいたい男は頭で考えますから、ぐずぐず。逆に、奥様の方がばしっと決められるんじゃないですか。うちもそうですが。

ご主人    ええ、彼女はもうはっきり決まってる思いますね。

先生       大規模改造は構造計算、確認申請と必要ですから。それで設計士さんも壁のことを気になさるのでしょう。基準法にかかわる人はその世界に生きてますから、その世界に認めてもらうにはテクニックがいるんです。だけどそういうのは重要じゃないんです。何よりも出来たものが全てですから。その中で居心地が良いかです。それを図面やらなんやらというのは馬鹿らしい。暮らす人が満足するかどうかです。うちは現物主義ですから。それで施工も自分でみないと気がすまない。その代わり、ひとつひとつ各種工事の職人探さないといけないですがね。彼らは真面目ですし、値段もそこそこで、そういう人がまだいますから。全部私が責任を取ることになります。だから住宅しか専念するしかないんですよ。

ご主人    私の頭の中を一度整理せなあかんね。しっくりけえへんのは何か、ゆうのを考えないかんな。ちょっといっぺん考えて、整理します。

先生       ごゆっくり、じっくりと。
いつまでにというのはおありですか?

ご主人    ぼくは実はないんですがね。でもガタがきてるからなるべく早くとは思ってます。

先生       出来るだけ、私たちもご縁があれば幸いと思ってます。追っ掛けはしませんが。

ご主人    今日は長い間ありがとうございました。なんか、お悩み相談みたいになってしまって。住宅メーカーばっかり行ってましたから。

先生       シーダ・バーンもメーカーに劣らず最先端です。一周遅れた最先端ですよ。

ご主人    ええ、ホッとします。

先生       それではまたのお越しをお待ちしております。

ご夫婦    失礼します。ありがとうございました。


(おしまい)


見学簿-10Cから読む


見学簿-10F様②


10F様のご見学の様子を3回に分けて配信いたします。




まずは土間からご案内

先生       シーダ・バーンは土壁の代わりにモクセン板を使っています。

ご主人    本当は竹を使ったりするんですよね。

先生       本来は竹を編んで下地にするのですが、職人さんがあまりいませんので。最初はこれではお客さんが来ないと思って、漆喰の下塗りをしましたが。竹を編んでやってもいいですが、職人さんを探さないといけませんね。いるとしたら、都市から離れた地域とかですかね。柿渋は、産地は京都ですが、野地板なんかは予め製材所で塗ったりしてます。床板は厚さ50ミリ、幅20センチのものを使っています。これは天竜材の200年物で重くて硬いですが、通常はこちらの、杉材を使います。目が粗くて柔らかくて暖かい。家の木材は全部杉です。若い方にも対応できるように、安くても手作りで墨付けできるように。

              では、どうぞ、座敷へ。
             
              (三段窓、変則三段窓、四本貫の紹介)これは全部、シーダ・バーンの要素です。日本建築にも合っています。柱の間隔は950、三尺二寸弱。民家の場合は、もうちょっと広いですかね。

ご主人    990ですね。

先生       関西間ですね。床ですが、ここは土間にモクセン板を敷いてから床板を張ってます。今はもうやらないやり方ですが。

ご主人    湿気は大丈夫ですか?

先生       モクセン板が吸収してくれます。カビはいっさい生えませんよ。
(外へ移って、ポーチの面格子、アプローチ、リサイクル耐火レンガの紹介)



中庭で立ち話夏の暑さと冬の寒さ

先生       薪ストーブを使っていますので、薪小屋もあります。うちは各現場の廃材が集まってきます。杉はあまりよくないというか、乾燥しなければいけないのと、目が粗いので熱量がイマイチ。ケヤキとかクヌギとかならいいようですけれど。

ご主人    僕は冬が寒いのは知ってるから、石油ストーブがんがんに焚いたりしてしのいでますが。嫁はずっとマンション暮らしなんで、すきま風は耐えられないと言ってますね。

先生       私はすきま風を意識的に認めています。最近の若い方も薪ストーブが良いって言って、実際もそういうことが気にならないようです。一時、岸和田、篠山、和歌山でそういう事例があったんで、うちもそのときに急遽入れてみたんですが、なかなかのものだと気づきました。それまでは火鉢で、灰が散りますからね。薪の世話などこまめであれば、おすすめです。夏の暑さは特に問題にする点はないですね。

ご主人    僕も小さいときは夏でも涼しいと思ってました。だけど、ここ15年くらいですかね、涼しいと感じない。木が大きくなったからかな、と思ってます。両親とも木が好きで、敷地も広いですから、木もすくすくと大きくなって。

先生       そうですか。ところで、こちらのアトリエは本当は平屋なんですけど、上を収納として、だから天井が低い。雨戸は?お使いになってますか?

ご主人    もう、使いもんにならなくなりつつありますが・・・(笑)



ポーチのベンチにて...

先生       どうぞ、お座りになってください。

ご夫婦    ここは涼しいねぇ。

先生       どこかに余裕のあるスペースを作りたいんです。渡り廊下とか、ポーチとか。





につづく。次回、先生語ります。)

見学簿-10Cから読む

見学簿-10F様①


10F様のご見学の様子を3回に分けて配信いたします。




100年前の家のリフォームを考えています。

先生       雑誌は何をご覧になりましたか?

ご主人    これです。(チルチンびと20096月別冊 地域版)

先生       ありがとうございます。どんなところを気に入られたのですか?

ご主人    風が通る、というところですね。実はちょっと早めに来たので、この辺うろうろしていましたが、この土地は風が通りますね。

先生       海と六甲山が近いので、山風海風があります。ここ23日は秋風の感じですね。関西でも少し内陸になると違うかもしれませんが、関西という括りでそう変わらないところが多いでしょう。

ご主人    実はリフォームを考えていまして。古い家で、骨組みは100年近くて、40年前に土間をつくり変えたんですが、それから40年間手入れせずに地震のときに応急処置だけしたという感じです。父がいる時から家をさわらなあかんとは思うてまして、最近は雨漏りもあって、そろそろ何とかせないかんと。知り合いの建築士の方がいまして、その人となんとなくプランのやりとりを始めたものの、デザインした図面を見ても、何か、こう、腑に落ちない・・・というか。これでお願いします!と言って始めているわけでもなく、壁量が足りないとか、基礎が玉石に乗ってるだけとか、そういうことを言われると、あれはあかん、これはあかんとか自分で考えてしまっています。出来あがったプランを見ると、これいけたんか!ってなったり。なんというか・・・。

先生       お互いに不安材料があって、仕事なのか、その一歩手前かという状況かもしれません。仕事をする方も、やりましょう!と自分からは言えない場合ありますよね。お互いに遠慮しあっている状態。私も若いころは、最初から仕事ですと、一方的にはなかなか言えなかったです。どうにかしていい案を出して認めてもらおうという気持ちもありましたから。

              100年前のものというと、それはすごく尊敬に値する家です。私にとっての先生みたいなものです。伝統建築は教えてくれる人がいません。いるとすれば棟梁ですが、彼らも教えてくれるわけではない。目で見て盗む、体で馴染んで覚える。そういう家なら、私も何かインスピレーションをいただいて、受け継ぎ方を考えたいと思います。

              玉石に乗っているとか、壁量の計算とかは、建築基準法の世界です。基準法の世界と、日本文化の世界、それぞれ違いますから。別次元のあいだをさ迷っているとどこにもいけません。両者融合の世界があっても、見出すのは大変な時代です。
100年と言ったら、昭和初期ですか、農家ですかね。

ご主人    ええ、そうです。

先生       私の両親の家は大正14年上棟の家で、近代和風のガラスの家でした。震災でも2~300枚の瓦を変えただけで済みました。震災直後、建築家同士で倒壊建物調査隊というボランティアグループができましたが、ほとんど壊れたものしか注目しませんでした。なぜ倒れたか、壁がなかった、配置のバランスがわるかった、筋違いが外れたからという結論だけで今に至っています。倒れず残ったものは何故か注目していないですから。

ご主人    瓦も、重いのと軽いのとありますね。最近は。

先生       関西は台風があるから重たい瓦なんです。私は震災以降、瓦支持者になりましたから、瓦で軸組をしめる。重くて、分厚くて、太い、こういう価値観が日本のお寺、神社に残っています。一度、昭和30年以降の住宅をリフォームしたことがありますが、あれは散々でした。壁をめくると、もう、見えなきゃいいと思ってつくっている。でも、100年の住宅だと話はちがいますね。つくり変えるにしても現代の生活に対応できる民家にできるのではと思います。私はいつも伝統的な民家を受け継いで家をつくりたいと思ってやっています。ただ、リフォームだと一からできませんから。今までメインでやってきませんでしたが、やっていることの基本は同じなんです。でも、こういう良いお話をいただくとむずむずとはします。
              隣のアトリエがいわば古民家再生ですね。小屋組みだけ残して、あとは全部変えています。駐車場のところが、昔は風呂焚き場で、当時の太鼓梁が残っています。

ご主人    家の材にも、ひとつひとつに歴史を感じるというか、ある時、絨毯屋さんが来て、梁を見て、あれも取り替えなあかんなあ、とか言ってるのを聞くと、生まれた頃から見てきた梁も外ずさなあかんのんか?!と。捨てるのはなあ、と思ってしまう。

先生       日本の建築も今は合理主義優先ですから、最低限の柱に部分的な桁の高さで良しとする。私なんか、壁であろうが開口であろうが、一本通った桁があったらかっこいいと思います。無駄とかいう話でなく、出来上がりをみても全然違う。検査に合格すればいいと思って建ったものは、見てもやっぱり何かが違う。毎日ふれるものだから、私も毎日、梁にありがとうと思ったり、特に貫とクサビには毎日感謝していますよ。

(アヤ乱入。うろうろしてテーブルの上に落ち着く。)

先生       動物は飼っていらっしゃいますか?

ご主人    ええ、犬を。


につづく。次回、いよいよご見学。)