シーダ・バーンのブログへようこそ。
これから家を建てようと思う人に伝えたい建築家の日々の仕事ぶりを綴っています。
学生さん、社会人の方々にも参考になれば幸いです。
なお、当ブログでは、人物、場所、日時等が特定できるような表現を控えています。



第4回講義録111019



イントロ

皆さんこんにちは。時間が来ましたので始めます。



まず、イントロ。今日は私の仕事がらみの話ですが、イントロですから、内容は建築、環境という難しい話ではなくて、普通の人の暮らしについての話です。ご紹介する「チルチンびと」という雑誌は、建築家の住宅の掲載などがされていますが、建築設計の話ではなく、そこに住む人や家族の暮らしに焦点があてられているのですね。まさに「普通の人の普通の言葉」が紹介されているのです。「普通」という言葉が「普通」かどうかはわからないですが。要約しつつキャプション付の写真を見ながら、会話文を聞いていきましょう。 




―現代の民家で楽しむ四季の恵みのある暮らし・兵庫県明石市 H邸―
  • 「窓を開けて風を感じられない暮らしは、私にとって価値がないんです。」
  • 「(想い描いたのは幼いころ住んでいた)いわゆる田舎の古い家です。夏は建具を開け放して風を入れる。普通のことだと思っていたのに、最近では特別なことになってしまって」
  • 「本物の素材に包まれて暮らしたい。」
  • 「難しいことを考えているわけではないんです。
  • 住まいも食べ物も化粧品も、変なものがつかわれているのは嫌。動物的な感覚で、本物であるもの、自然であるものに惹かれるんです。」
  • 「子どもの頃は暑さも寒さも我慢していたでしょう。それを無理に設備で快適にするのは少し違うな、と思うんです。」
  • 「(次々と出る新製品は)すぐ古くなってしまうから、無理に今買わなくてもいいなと思って、今日に至っています。」

以上ですが、これらは言葉だけではないんですね。本文にも書入れありましたが、驚いたことにこの家ではキッチンに給湯設備を入れていないんです。お風呂場を離れに配置したものですから、台所に給湯をつけると距離が遠くてお湯の出るまで時間がかかりますと伝えたら、奥様はもともとキッチンにお湯は不要と言われたんです。冬場手がかじかむときは沸かしたお湯を足して食器を洗いますと。それで思い出したんですが、生前の父親が毎朝洗面所までヤカンを持って行って髭剃りに使っていたのを・・。寒さの話が続きますが、ある雑誌のライターさんが、「冬の寒い日はサムサムといいながら靴下や下着着てしまえばおわりですから、それでいい」と言っていたことも思い出します。私の父母は特に最新性能のない昔の家で暮らしていましたが、父は97まで母も91まで元気にしていました。むしろ私は最新設備や高性能住宅を疑っているのはそんなこともあるんです。今日はこのぐらいにして、次にテーマに移ります。





テーマ

さて先週までの工事の進み具合を標準的な工程表で再確認しましょう。現場では地鎮祭から仮設電気や仮設便所、地盤改良、基礎、設備のスリーブ入れや先行配管などがありました。一方製材から加工場への搬入、棟梁による墨付け・刻みが進んできました。そこで今日はいよいよ、建前工事に入っていく様子をお伝えします。まず周囲に足場を設置します。これも事前に配置や高さを打ち合わせして金額や日程を決め込んでいます。その後、棟梁が土台敷きから建前工事に入っていきます。この建前工事というのは、いわば家づくりのハイライトとでも呼ぶべきものでしょう。以前の現場で、建前工事の進み具合を書き付けたメモがあります。ご覧のように、まさに分刻みで作業が進んでいきます。今日はいちいち説明をしません。全体の感じを受け止めていただければいいということで、バックミュージック付きで現場の進行を見てもらいたいと思います。時間の都合上、スライドは建て方2日目の午前までとしました。つづきは次回のお楽しみです。

(講義ではPat methenyのアルバム「We live here」から2曲目and then I know、3曲目The girl next door、5曲目we live here、7曲目something to reming youに載せて・・・) 













サビ

次にサビに移ります。前回、試算表を簡単に紹介しましたが今日は、項目ごとに詳しく試算表を説明しておきます。試算表というのは家づくりにおけるすべての種類の金銭の出入りが一目でわかる重要な表です。ところで、世の中では総合請負工務店の見積書というものが幅を利かせています。見積、積算、予算、試算、決算などたくさん似たような文字が出てくるのでかないませんね。見積書と試算表は工事全体の金額を各種工事の積み上げで示すという点では同じものです。しかし、この各種工事費は見積もりと称していながら見込み金額なのです。しかも相当グロスとしての性格があります。つまりサバを読んだ金額ですね。一般にその分諸経費で多少減額して印象を損なわないようにしますが。その時点で施主は工務店と契約して見積書が契約書となり着工がなされます。着工の後ネット金額で工務店と直接工事業者が契約するのが一般的です。試算表は各種工事の見積もりが出るまで金額が確定しないところが違います。 


横軸にまず予算の欄があります。次に決算の欄。決算は次の見込みと支払の欄の合計です。つまり見込みの欄がすべて支払の欄に移れば決算になります。工事ごとに金額が分かれていますから、すべての決算が出れば決算表として完成です。

縦の欄を見ていきましょう。大項目を眺めると、工事種別に分かれています。今回は仮設工事から地盤改良工事まで、ひとまず18種類の工事が挙がっています。ひとつの工事で工事業者が複数の場合もありますから、工事業者の数は30近くになります。その他の費用も入れて総計額が支払金額或いは支払見込み金額の合計となります。最後に施主の入金額が示されます。入金と出金の差を常時チェックして工事を進めていくわけです。では工事の種類と金額を見ていきます。 



本講義録では試算表に代わり、掲載雑誌「良質な低コストの住宅傑作選」世界文化社2005,pp99-101からの資料をご紹介します。



0・仮設工事は様々な工事や費用の寄せ集めですが、一様に「消え物」とも呼ばれる家ができたときにはなくなっているものです。試算表では仮設足場シート工事、仮設便所、警備、などの請求書が発生するものや、交通、保険、雑養生など立て替えなどの出費が主です。よく直接仮設とか共通仮設とか言われますが、実際はあまり区別しなくてもいいかもしれません。一番費用のかかるのは仮設足場シート工事ですが、まったく跡に残らないので、施主としては注目しにくい工事ともいえます。狡猾な工務店ならこの辺りを儲けどころの一つとするのです。

1・基礎工事は今まで詳しくお伝えしたところです。土工事、鉄筋工事、型枠工事、コンクリート工事など複合的ですから、普通まとめて請負工事として扱います。工事業者によって随分金額の差がでますが、出来上がりはそれほどの差があるとは思いません。

2・製材工事は製材所の選定が必要です。特に、材木屋さんとか材木商店などと呼ばれるところに見積もりを出すと経費分、中間マージン分高くでてきます。材が足りなくなったり、急に必要な場合近くの材木屋と付き合っていたほうが便利ではないかと思うときもありましたが、今は宅配便があって不自由しませんし、あらかじめきちっと拾いをしておけば早々滅多にあるものではありません。直接製材所に頼むほうが圧倒的に有利だと思います。

3・大工工事は、まず加工場での墨付け・刻み工事があります。これは管理が行き届かないというか、棟梁の判断に任せる部分が多く、坪単価による手間代を主とした請負工事とします。一方現場での造作工事は、建物形状によって作業難易度も微妙に違ってきますので、現場での管理が必要です。工事は常用といって1日8時間でいくらという手間代で交渉して、あとは人工(にんく)数を算出する方式としています。人工数は其々の部位や数量によって表を作って合計数をチェックしていきます。

4・屋根工事は主に瓦工事です。面積によって金額が比例します。これも業者によって、特に地方など随分金額に差が出る工事です。また、軽量な屋根材の普及で瓦が敬遠されがちですが、屋根はぞっこん瓦だけです。ここ数年はある瓦屋と限定してつきあって、そこから下請けの工事業者を選定しています。驚いたことに、瓦業界は潜在的な伝統文化があるのか、全国的な繋がり意識がもともとあるようで、地元で探さないほうがいい場合があるのです。

5・板金工事は主に屋根と壁のとりあいを金属板でおさめる奥付板金と雨樋工事です。時に屋根自体を板金で葺くばあいがあります。請負工事となります。

6・左官工事は外壁の仕上げ工事が主で、さらに浴室のタイル下地の床壁などもあります。一般的には乾式パネルの外壁やユニットバスなので、左官屋さんは失職状態で、外構工事などで首を繋いでいる状況ですが、私は瓦と同様、昔ながらの漆喰などの湿式工法を重用しています。

7・建具工事は普通金属製建具(主にアルミサッシ)と木製建具に分かれますが、杉材の木製建具オンリーです。一般に木製建具は高くついて性能的にも劣る場合が多いと言われますが、素材としての魅力は捨てられません。そのためすべての場所の建具を一括発注することによってスケールメリットをだして、また性能上の弱点も、建物形状や暮らし方などで一体となったメンテナンスを考えて、価格的に現実化することが出来ました。他に、ガラス工事、建付け(切り込み)工事も含めます。

8・金物工事は大工工事で使う構造用金物と建具工事で使う建具金物、家具工事で使う家具金物など。用途別に数社に見積もり依頼して一括購入します。工事というよりも製品買付ですね。取付手間は各工事に振り分けられます。

9・塗装工事は一般的な場合とはかなり違います。主に柿渋とベンガラ・桐油を購入することと、刷毛やウエスを含めて、塗り手間をみます。比較的簡単なので施主自ら作業する場合も多々あります。工事業者に頼む場合は常用で様子を見るほうがいいでしょう。

10・タイル工事は主に浴室の床壁と洗面カウンターやキッチン天板など主に室内に貼るものです。時々、予算のある場合に石工事というのもあって、石とタイルでは別業者になります。製品材料の業者買付保護などがあってほとんどが請負工事です。

11・家具工事ですが、キッチンカウンター、テーブル、本棚など近年は杉材を多用しているため家具屋さんが敬遠しがちです。節や乾燥収縮を嫌うのです。大工さんが作る場合が増えています。請負の場合と常用の場合と半々です。

12・内装雑工事は種々のはみだし工事の寄せ集めです。キッチンシンクは本来ステンレスを扱う工事業者、看板屋とか厨房器具屋に注文します。あと家電製品や薪ストーブ、設備小物、主に浴室周りの防水工事も規模が小さいのでここに入れています。

13・電気工事は電工や電業と言われる業者に注文します。建物が木造の顕わし工法なので一般の住宅より手間がかかります。同じ業者を数回使っていると値段挙がる傾向にあるのはそのためだとわかりました。手間と慣れのせめぎ合いになっていきます。むしろ地方での初めての工事屋のほうが安くなる場合があります。請負工事です。

14・給排水衛生設備工事は主に給水、給湯と汚水・雑排水、雨水排水の配管工事と各種衛生機器工事があります。浴室などが道路から奥にあると高くつくので、計画段階から配置について心配がありますが、結局設計が優先されるのです。水回りは東北は鬼門と言って嫌われますから、西側とか北側に道路があると配管的には有利です。請負工事です。

15・ガス工事は外部配管によって金額が変わります。内部は大阪ガスなど施主優先で金額はコンセント個数によって一定です。直火優先ということもあり、オール電化などはあまり薦めていません。

16・最後に外構工事ですが、床舗装、塀、門扉、門屋根などの工事です。通常、床、腰壁は耐火古煉瓦を使用、上部塀や門扉・門屋根は木造です。業者は煉瓦は左官屋に頼むことが多いです。予算がない若い施主などは、特に遠方の場合地元の業者などに振ります。

駆け足で説明しましたが、住宅といえどもこれだけ多くの業種・業者があって、施工の一部の金額だけでも大変な神経を使うことがわかっていただけたと思います。以上です。





フェイドアウト
ではQ&Aに移ります。(これは次回に読み上げたものですがこの回の質問につきここに掲載します。全員・全回のQ&Aはこちら) 


第5回講義より(111026)

先生は受けない仕事などはありますか?お金の事をおっしゃっていましたが、そういうの以外でこんな人とはやりたくない、とか・・・。
▲ありません。今までにもなかったです。だいたいそういった類の人は訪ねてきませんから。世の中には嫌な奴はゴマンといますが、ラッキーなんですね。もし来たとしたら、お金あっての仕事ですから受けると思います。

先生はお金が大事と言いましたが、今までお金がないという人の気持をくんで、利益を無視して仕事をした事はありますか?
▲皆さんはミナミの帝王の萬田さんご存知ですか。金儲けの中にも義理人情がありますね。私の知る限り、利益を無視したことなんかない、きっちり仕事していると思います。だいたい利益を無視したら仕事になりません。尊敬とは別で、私はいつ見ても心やすらぐ大好きな人です。マンションで理事をしていて、結構パワーを消耗していますが、一円たりとももらえません。自分の住んでいる、自分たちの住んでいる家のことですから。これは仕事ではないですよね。

1日の緻密なスケジュールで優先順位を考えながらしないと大変だなあと思いました。日本では住宅同士が密接しているので施工が狭いところで行われるので難しいかと思いますが、お隣さんの住宅を傷付けてしまった事とかありますか。
▲ありました。足場工事の解体時に見逃して、後日お隣から屋根の瓦が割れていると言われたり。工事賠償保険というのに入っているので、大変なことにはなりませんが。ご心配のように密集地の近隣問題は悩みの種ですね。設計だけならスルーなんでしょうが・・といつも思います。

全国で働いていると思うのですが、事務所を世界などをめざすことのできるように大きくしようと思ったことはありますか?
▲ないとは言いませんが。自分の能力では・・という及び腰しかなかったです。それと世界という概念です。日本とか関西とか地域文化、伝統文化を大切にすれば、地球的な範囲など思いもつかなくなります。いわゆるINTERNATIONALということは、故郷を捨てたさすらい人に似合う言葉ですよ。