竣工後1年ぶりに遠方で建てた09Y邸に伺った。今度の現場で使用を予定している瓦が窯変瓦の在庫品であるため遠方での製品検査が必要となった。旅先の途中を通るので立ち寄らせてくださいとお願いした。前日の打ち合わせ場所から夕方到着し、工事の最中にお世話になった馴染みの宿に一泊。翌朝7時過ぎには現地着。まずは周囲を一回り、約束の8時ちょうどに、おはようございます。奥さんが赤ちゃんを卒業したお子さんと笑顔で出迎えてくれた。ご主人が住んでからも塗られたようで柱、梁の柿渋がずいぶんと落ち着いた様子をかもし出している。生活雑貨なども選ばれたものがさりげなく置かれて、この1年の間でシーダ・バーンでの暮らしぶりが板についた様子は嬉しい。少し前に今年の夏は暑く、2階の四畳半にクーラーを入れたいとお電話があったので、どうなったのかと思いのぞいてみた。その4畳半はダイニングキッチンのすぐ裏手にもかかわらず小屋裏になるので当初、予備室として設計した部屋である。それが何と寝室として使われていることにびっくりした。寝室は階上の大屋根下の8帖の小屋裏としていたはず。設計どおり最初の生活パターンが定着していくとは限らないが、少し戸惑った。しかし私の家もキッチンの隣、渡り廊下を介してはいるが寝室にしているので、キッチンと寝室と便所の3部屋が隣り合っている生活の心地よさはよく分かる。
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寝室からキッチンをみる |
09Yさんご夫婦にはじめて出会ったころのことを思い出す。案内されたのは中央に2メートルの段差がある北斜面の敷地である。高いほうが南で隣地はさらに高く2階建てでも間近に迫ってきている。たぶん低いほうにガレージを、高いほうに家を建てましょうという心積もりでの造成なんだろうが。設計者にとっては、周りには平らな敷地があるのに、わざわざこの形状のものを選んで、一苦労するなという予感でいっぱい。聞いてみると、少しでも安い土地を購入することで予算を建築費に回したいと言われる。そういわれても嬉しいやら悲しいやら。その後ひと頑張りして設計を終えて段差をもった家が出現。南庭も結構広いし陽当たりも十分。自己評価としてもなかなかユニークな家ができたと喜んでいた。でもこの暮らしぶりは予想を超えていた。キッチンの隣なのに、何と屋根裏風の寝室で家族3人で寝ている様子はまさにイギリスのB&Bに泊まっているような良い雰囲気。この家にしかあり得ない暮らし方は誰の設計でもどのアイデアでもない。きっと神様からの贈り物、シンプルギフト、だったのでしょう。