シーダ・バーンのブログへようこそ。
これから家を建てようと思う人に伝えたい建築家の日々の仕事ぶりを綴っています。
学生さん、社会人の方々にも参考になれば幸いです。
なお、当ブログでは、人物、場所、日時等が特定できるような表現を控えています。



再訪記-10X邸

建物は無事竣工しご家族もすでに入居されている。しかし現地には次の出番を待つ仕事用の車が置いたままである。遠方の現場には事務所から車を持っていき、宿なり駅なりから通勤し、そのまま現場事務所代わりに使用している。ようやく次の遠方現場のスケジュールが決まり、車を移動するためとご家族の暮らしぶりを拝見するため、2ヶ月ぶりに訪問することとなった。通いなれた特急電車を降りて、常宿としていた旅館のご好意でガレージにとめさせていただいていた旧アルトに乗って到着。べんがらの塗られた外壁に見とれていると、奥様とお子様たちから笑顔で迎えていただいた。まだ引越しの余韻も残っているにもかかわらず各部屋を案内してもらい、しばし歓談。お子さんたちが嬉々として階段廻りの貫を昇り降りするのにびっくりしたり、家の中を駆け巡るのをみて、あぁ無事家が出来てよかったね・・。あれからもう2年も経つのかと感慨にふけった。

 縁結びで知られる神社が60年に一度の特別拝観をしているというので、夫婦でお参りにいこうということになった。その地域は私の建築設計の師である菊竹清訓氏が神社の境内をはじめ、近くの街にも多くの設計作品を残されていて、私も短期であるが仕事を任されたこともあるゆかりの地でもあった。拝観ついでにご祈祷も授かった旅行から帰った数日後、なんとその近くにお住まいの10Xさんから依頼のお電話をいただいたのだ。事情を伺っても、当然ながらそういった私の履歴事情などご存じもなく、ただ私の雑誌記事やホームページを見て気に入ってくれただけという。偶然にしても不思議なこともあるものだと思いつつ、その縁と10Xさんの熱意に動かされ、快諾して設計を始めた次第である。

独立して設計事務所を営んでからは、無名のうえ上昇意欲も人並み以上には及ばない。わが師のように遠方の仕事を頼まれるなどは夢のようなことに思っていたところ、ようやくこの年になって遠くからのご依頼もいただくようになっていた。今回、ささやかながらも師の作品の傍に建物を残すことができたのは10Xさんの神がかり?の1本の電話からなのであった。そんな感謝の念もたぶん奥様は露知らず、早々にお礼の言葉を述べて帰路に着く。

途中、菊竹氏の設計である美術館に立ち寄ってみた。もう30年前であろうか。昔を思い出しながら、ぜんぜん変わっていないな、いやこの床タイルはこんなワックスがけ風だったかな等とつぶやきながら、しばしロビーで休憩したのであった。今、この美術館の写真を見返して、菊竹先生の和モダニズムからは、袂を別ったものなのか随分離れたところに来てしまったなぁ、とつくづく思う。

(なお、この家の施工管理に際しては、修行時代の同窓生であり今は地元に戻り大活躍しておられる建築家のご助力によるところ大であった。)